お問い合わせのご連絡は

0120-322-150

 平日9時〜17時(土日・祝日・年末年始を除く)

24時間
受付

お問い合わせフォーム

「療育的無視」とは何か――自閉症の子育てで誤解されやすい言葉

2026.08.06 2026.8.6

子育てをしていると(特性のある子を育てている場合は特に)、 「そこは無視して」「療育的無視をするといいですよ」と言われることがあります。しかし、「無視」と聞くと、多くの保護者は戸惑います。放置しておくということなのか、冷たくすることなのか。本当にそれでよいのか。不安になります。

子育てで言われる「療育的無視」とは、望ましくない行動に“過剰に反応しない”ことを指しています。専門的には「計画的無視(planned ignoring)」と呼ばれる対応に近いものです。

子どもの行動には必ず理由があります。そして人は、「反応してもらえた行動」を繰り返す傾向があります。叱られることも、驚かれることも、長い説明をされることも、実は強い“ごほうび”になることがあります。その結果、困った行動がかえって強まってしまうことがあるのです。

家庭内で自然に行われる「療育的無視」

具体例でお話しします。

息子には知的障害と自閉症があります。特性により、同じことを何度も繰り返して聞いてきます。さらに、精神疾患である強迫性障害もあるため、確認行為がとても多いです。

例えば、

「宅配便は毎日同じ人が来る?」

「このマンションで生ごみが一番多いおうちはどこ?」

と、こんな答えられないことを何度も何度も確認してきます。

そんな時、私は全部に真正面から付き合うわけではありません。でも、「また同じこと聞くんじゃないの!」「そんなことお母さんはわからない!」と叱るわけでもありません。

「同じ人なのか……なあ……」

「どの家が多いのかなあ……」

という感じで、軽く受け止めながら、ふわっと流すようにしています。必要以上に大きく反応しないのです。

これが、私の中では“療育的無視”に近い感覚です。完全に無視するわけではなく、「その行動を強化しない程度の反応」にとどめるイメージです。

ただ、これがなかなか難しいのです。

無視をすべき場面とそうでない場面の見極め

例えば息子が、

「カレーライスとライスカレーってどう違うの?」

というように、本当に答えを求めて質問している時があります。

そんな時まで、適当に「そうなんだねー」と流してしまうと、息子は「お母さん、聞いてない!」と怒り出すことがあります。

つまり、こちらは「反応を減らそう」と思っていても、子ども側は「ちゃんと聞いてほしい質問」だったりするわけです。だから、全部を同じ対応にすればよいというものではなく、見極めが必要なのです。

集団生活の場で行われる「療育的無視」

保育園や幼稚園で、保育士や幼稚園教諭が子どもに対してそっけないように見える態度をとっているのを目にして、不思議に思ったり、もっと向き合ってあげたらいいのに、と思ったりしたことはありませんか。もしかしたら、「療育的無視」の現場だったかもしれません。

私は保育園で文字指導の講師として週1回クラスを持っているのですが、「カマッテさん」がいます。

大人の注目をひくために下記のような行動を絶え間なくします。

  • わざと大声を出す。
  • 物を投げる。
  • ふざけて変なことを言う。
  • プリントをグチャグチャにする

この行動に対し、保育者はどう対応するべきでしょうか。一つ一つの行動に対して注意するべきでしょうか?

叱ったり、慌てたり、長い説明や説得をしたりといった大人の反応そのものがその子の「ごほうび」になっていると見定めた場合、危険でない限り、あえて反応を小さくします。淡々と対応し、落ち着いたらしっかり褒める。つまり、強めたくない行動への注目は減らし、望ましい行動への注目を増やすのです。

また、こだわり行動の一部として、同じ質問を何度も繰り返す場合があります。その際は、一度は答えるけれども、その後は同じトーンで延々と繰り返さないという対応をとることもあります。これも「反応を強化子にしない」ための工夫です。

「療育的無視」はその子の感情を無視することではない

ただし、ここで大切なのは、「療育的無視」は決して感情を無視することではないという点です。また、「療育的無視」は困り感を放置することでも、SOSを見ないふりをすることでもありません。

むしろ逆です。

行動の背景に何があるのかを見極める。不安なのか、感覚の問題なのか、注目を求めているのかを考える。危険な行動には必ず介入する。そして落ち着いた瞬間や望ましい行動を逃さず全力で肯定的に関わる。「療育的無視」にはこうした“積極的な関わり”が前提にあります。

「無視」という言葉だけが切り取られると、冷たい対応のように聞こえます。しかし本来は、子どもを見ないことではなく、子どもの未来を見据えて反応を選び取るという、意図をもった関わり方です。

「どう叱るか」より「どう反応するか」

子育てでは、「どう叱るか」よりも、「どう反応するか」が問われます。反応は、子どもの学びそのものだからです。

療育的無視は放置することではありません。強めたいものを選び、育てたい力に光を当てるための、戦略的で温かな支援なのです。

知的障害・発達障害・ダウン症・てんかん身体障害※・精神障害※ のある方のための総合保険
ぜんちのあんしん保険 この保険について知る

*身体障害のみまたは精神障害のみの場合は現在就労されていることがご加入の条件です。
また、精神疾患は保障の対象外です。

執筆者プロフィール

立石美津子 (たていし みつこ)

著述家
20年間学習塾を経営、現在は著者・講演家として活動。
自閉症スペクトラム支援士

『一人でできる子が育つテキトーかあさんのすすめ』
『はずれ先生にあたったとき読む本』
『子どもも親も幸せになる発達障害の子の育て方』
『動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな』
など著書多数

日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞作『発達障害に生まれて(ノンフィクション)』のモデル
Voicy  https://voicy.jp/channel/4272
オフィシャルサイトURL https://tateishi-mitsuko.com/
テキトー母さんのすすめ(アメブロ) https://ameblo.jp/tateishi-mitsuko/

この執筆者の記事一覧

関連記事

おすすめの記事