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ヘルプマーク、付ける?付けない?

ヘルプマークというものがあります。赤い地に白い十字が描かれた、赤十字のような印のことです。この「ヘルプマークを付けるか、付けないか」については、さまざまな考え方があります。

確かに、あのマークを身につけて街を歩くことに不安を感じる人もいます。「人は悪い行いをする」という性悪説の立場に立てば、危険が伴うこともあるからです。つまり、「あの人は障害がある」「知的に遅れがあるから何をしても分からないだろう」と思われ、痴漢や詐欺などの被害に遭う可能性があるということです。

そうした意味で「付けるとかえって怖い」「子どもには付けさせたくない」と感じ、ヘルプマークを付けない選択をされるご本人や親御さんがいらっしゃいます。

車椅子乗降アナウンスの悪用

以前、私の記憶では、電車で車いすの方が乗車するときに、「○号車に車いすの方が乗ります」といったアナウンスが流れていました。

ところが、このアナウンスを聞きつけた不審な男性がその車両までやって来てつきまとい、
家までついて行った、そんな事件が実際にあったそうです。こうした被害は他にも複数報告されており、2021年には障害者団体が、「アナウンスによって居場所が特定され、痴漢やストーカーにつながっている」として、国土交通省に改善を求める要望書を提出しました。

この声を受け、国土交通省は、車いす利用者などの乗降情報を駅員と乗務員で共有する際、
「駅で流すアナウンス以外の方法を検討するように」と全国の鉄道事業者に要請するに至り、鉄道会社の中には、これまでのような“誰にでも分かるアナウンス”から、“職員だけに分かる合図”へと変更したところもあるそうです。

マタニティマークも

マタニティマークも、同じような課題を抱えています。

臨月のようにお腹が大きくなれば見た目で分かりますが、妊娠初期はつわりがあっても外見からは分かりません。だからこそ緊急時に妊婦であることを知らせやすくしたり、周囲が妊婦への配慮を示しやすくするためのマークを付けることが推奨されているわけですが、実際はマークを付けている女性が、「お腹を蹴られた」「突き飛ばされた」といった被害に遭うことがあります。このような被害を恐れ、「マタニティマークはつけない」と決める人もいます。

「人は悪い行いをする」という性悪説の立場に立てば「つけない方が安全」という考え方になるのでしょう。たしかに、それも理解できます。

ヘルプマークが役立つとき

先日、移動支援の研修会がありました。私自身も移動支援の仕事で、自閉症のあるお子さんを連れて電車に乗ることがあります。

その子の見た目は「普通の子」と変わりません。ただ、「電車に乗ったら席に座る」という強いこだわりがありました。そのため、どんなに混んでいても誰かが立ち上がると、まるで椅子取りゲームのように人をかき分けて、たとえお年寄りの前でもさっと座ってしまうのです。当然、周囲からは「なんだこの子は」と白い目で見られます。

しかし、もしヘルプマークをつけていれば、「ああ、この子には事情があるんだな」と理解してもらえる可能性があります。移動支援の付き添いをする立場としては、あのマークをつけてもらえると本当に助かります。周囲への説明や謝罪の手間も減りますし、何より周囲の理解を得やすくなり、子どもが嫌な視線にさらされる時間も短くなります。

「付けさせないでください」と言う親御さんに対しては、せめて移動支援を利用するときだけでも付けてもらえるとありがたい……というのがいち支援者の本音です。

ヘルプマーク付ける派付けない派、どちらにも理由がある

もともとヘルプマークは、「内部疾患」や「見た目では分からない障害のある人」のために作られたものです。だからこそ自閉症のある子どもたちには積極的に活用してほしいと思います。ただ、付けたときに危険に遭う可能性があることも知っているので、「付けない」という選択をする保護者の気持ちもわかります。

ヘルプマークをめぐる悩みは「性悪説に立つか、性善説に立つか」の選択に似ています。性悪説に立つと怖くて付けられませんし、性善説に立つなら心配せずに付けられます。

ヘルプマークの議論が示しているのは、「弱い人を守る仕組みは、弱点にもなり得る」ということです。現状マークを付けるか付けないかは、それぞれが、それぞれの事情で判断している。まず周囲の方にはその背景を知ってほしいと思います。

あなたなら、付けますか? それとも、付けませんか?

執筆者プロフィール

立石美津子(たていし みつこ)

著述家
20年間学習塾を経営、現在は著者・講演家として活動。
自閉症スペクトラム支援士

『一人でできる子が育つテキトーかあさんのすすめ』
『はずれ先生にあたったとき読む本』
『子どもも親も幸せになる発達障害の子の育て方』
『動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな』
など著書多数

日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞作『発達障害に生まれて(ノンフィクション)』のモデル
Voicy  https://voicy.jp/channel/4272
オフィシャルサイトURL https://tateishi-mitsuko.com/
テキトー母さんのすすめ(アメブロ) https://ameblo.jp/tateishi-mitsuko/

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