fbpx

就学前から始めた『親なきあと』への準備(我が家の場合)

「誰にでもお世話になれる子に育てなさい」

 

それは、長女がまだ1歳の頃、長女を通わせていた療育園の保護者勉強会で、講師の先生が親たちに向けておっしゃった言葉でした。

生まれた我が子に障害があるとわかり、この先の人生にさまざまな困難が待ち受けているであろうことを覚悟し、本人が、いかに他人様の厄介にならずに生きていけるように育てるか、ということで頭がいっぱいの乳幼児の親に、「この子たちは、どのみち必ず誰かのお世話にならなければ、生きていくことはできません。だから、親以外のあらゆる人にお世話になれるように育てなさい」と言われました。

思いもよらない講師の言葉に一瞬戸惑いはしたものの、「あぁ、そうなのか、この子は障害児である前に、私の大切な子であり、私の子である前に、ひとりの人間なんだ!だから、私たち親がやるべきことは、他人様の手を借りながらでも、自分自身で人生を切り開いていけるように育てるということなんだ!」と理解しました。

その他にも「“ありがとう”の気持ちを伝えられる子に育てなさい」「御礼を伝えるばかりでなく、“ありがとう”って、たくさん言ってあげなさい。たくさん言ってもらえる子に育てなさい」「お父さん、お母さんがこの世にいなくなったとしても、幸せになれるように育てなさい」と教えられました。

「就学前から心掛けたこと」

 

私はまず、小学校入学までの間に、なるべくたくさんの同世代の子どもと接する環境で過ごさせてやりたいと考え、0歳から通った療育園を3歳で退園し、地域の保育所に入所させました。

その決断が正しいのかどうか自信が持てなくて、保育所の入所式の当日まで、ずっと悩んでいましたが、私が想像していた以上に、長女の社会性が身に付いたと感じました。(詳細はhttps://www.z-kyosai.com/column/1413.html  をお読みください)

次に私が親として心掛けた振る舞いは、「なるべく私が介入しない」ということです。保育所に入所する前に、当時はまだ珍しかったサポートブックを作成し、担任してくださる先生に託しました。

「お伝えすべきことはこのノートにすべて書きました。でもこれはあくまでも、私から見た娘のことだから、すべてここに書かれた通りにしていただきたいということではありません。基本的に先生方にお任せしますから、先生方から見た、私が知らない娘の姿をどうか見つけてやってください」と伝えました。

療育園は母子通園だったので、先生と本人の関係性が築かれる前に、どうしても親が介入しがちになり、そのことが、本人の社会性を育む機会を奪っているのではと感じていたからです。

支援者との間で、私自身が“いい塩梅”の距離を取ることには今でも正直苦労します。ですが、本人の成長を妨げないように振る舞うことを忘れないよう、心がけています。

「感謝の気持ち」

 

「あなたのお子さんには障害があります」と言われたら、その時は不安で、絶望的な気持ちになる親御さんも少なくありません。

だってその子育ては、確かに困難なことがいっぱいで、自分がこれまで勝手に思い込んでいた『普通』という概念が、これでもかというほど打ち砕かれることになるからです。

「なぜうちの子だけこんな風なの?」「どうして私だけこんな想いをしなければならないの?」と、誰でも一度はそのような感情に支配され、苦しむことがあるだろうと思います。

でも、『普通に捉われない』という素敵な価値観を手に入れたら、これまで見てきた狭い世界は突然カラフルに輝きだし、今まで経験したことのない、とてつもなく広い世界に連れ出してくれます。

親切で、愛情あふれる多くの人と出会い、感謝すること、されることの幸せに、改めて気付くことができます。

あなたのお子さんに障害がありますと言われたら、辛いこともあるけれど、その分、感動だらけの素敵な人生の始まりです!

 

私のお話は以上です。これからも一緒に、子育てを楽しんでまいりましょうね。

執筆者プロフィール

藤井奈緒

一般社団法人「親なきあと」相談室 関西ネットワーク 代表理事
一般財団法人お寺と教会の親なきあと相談室 理事 兼 アドバイザー

大阪府八尾市在住。八尾市教育委員会 教育委員(2019年12月~)
重度の知的障がい者である長女(21才)と、次女(15才)の母。
『親なきあと』次女一人に、長女の世話を引き受けさせることになるかもしれない状況に危機感を抱き、法的な備えについての勉強を始める。 その後、自分と同じように『親なきあと』を心配している障がい者家族が大勢いる事を知り、2019年に【一般社団法人 親なきあと相談室 関西ネットワーク】を設立。個別相談やセミナーを通して、障がい者の家族が安心して、笑顔で暮らしていくための情報提供を行う。また、2021年には【一般財団法人 お寺と教会の親なきあと相談室】の設立に参加し、一生涯寄り添い続けてくれる存在としての宗教者と、不安を抱える方々への架け橋となる活動を全国展開している。
その他、一般的な『終活』をテーマとした講演活動も行っている。

~講演実績~
・支援学校PTA勉強会 ・障害者団体保護者向け勉強会 ・障害者施設職員研修 ・社会福祉協議会主催講演会 ・東京、関西、京都、その他相続診断士会勉強会  ・浄土真宗本願寺派(京都)・真宗大谷派(京都)・真宗佛光派(京都)・金光教大阪センター他・一般社団法人コスモス成年後見サポートセンター大阪府支部・自治体主催市民講座・豊中市主催、人権啓発講演会講師 ・大阪府教育センター教員研修講師 その他多数

~メディア実績~【テレビ・新聞・ラジオ・雑誌】
・NHK総合『ニュースほっとかんさい』特集 ・産経新聞・読売新聞・朝日新聞・毎日新聞・京都新聞・文化時報 ・終活読本ソナエ・シニアガイド終活探訪記・毎日新聞医療プレミアム ・FMラジオ大阪、各地の地域FM、KBS京都ラジオ他

この執筆者の記事一覧

関連記事

おすすめの記事

  • ADHDがある人のSNSとの付き合い方

    少し前になりますが、某タレントがSNSで他の芸能人を中傷するような投稿をして活動休止に追い込まれてニュースになりました。このタレントに発達障害があるかどうか、私は知る立場にありませんが、このニュースか …

  • 子どもの障害、夫婦の温度差

    シングルマザーの私が相談相手として適切かどうか疑問ではありますが「夫と発達障害児の子育てについて意見が合わず、喧嘩が絶えない」というご相談をよく受けます。 さて、ちょっと古いたとえかもしれませんが、結 …

  • コントロールできない!チック症はつらいよ

    「チック症」は「不随意運動」とも呼ばれる、自分の意思と関係なく体が動いてしまう症状です。私の息子には発達障害とチック症の両方があります。 就学前から小学校低学年頃に発症し、青年期には軽くなるといわれる …

  • 本人に障害をどう伝える?いつ伝える?

    子どもが発達障害と診断されたり、グレーゾーンだと言われた経験があると、「障害告知」という言葉が頭に浮かびます。 わたし自身も、保育園に息子を入園させる際、誰に、どこまで、どんな風に、伝えたらいいのか分 …