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療育がない時代に算数LDだった私

2025.07.02

発達障害の一種である算数LD(算数障害)のある筆者。繰り上がり・繰り下がりのある計算は指を使ったり筆算をしたりしないとできないし、%の計算もできません。筆者は現在37歳ですが、算数LDが判明したのは30歳のとき。それまではずっと、ただ算数・数学が壊滅的に苦手なだけだと思っていました。

就活のSPIが解けず、算数LDを疑う

算数LDを疑ったきっかけは就活で必要な適性検査「SPI」の試験勉強です。何度問題集をやっても数学の問題が理解できません。その頃、おそらくテレビで学習障害というものを知ったのだと思います。大学の友人に「私は暗算や数学の概念が理解できないから算数LDかもしれない」と相談しました。しかし友人からは「指を使ったり筆算をしたりしたらできるのなら、苦手なだけじゃない?」と言われたため、そうか、苦手なだけなのかと一旦飲み込んだのです。

平成初期、発達障害の傾向がある子は「問題児」

それから月日が流れ、30歳のとき、仕事やプライベートのストレスから不眠になり心療内科を受診した際のこと。自分の生きづらさを医師に話したとき、ふと自分が算数LDを疑った過去があることを思い出したのです。受診の理由は 不眠でしたが、ついでに発達障害の検査を申し込んでみたところ、ADHDと算数LDが判明したのです。

子ども時代はずっと算数ができないことに悩みましたが、障害とわかった瞬間長年の悩みの理由がわかってスッキリしました。それと同時に、算数ができないことで頭ごなしに怒った親や教師へ怒りがわいてきました。私が子どもの頃はようやく自閉症という言葉が認知され始めた程度で、発達障害という概念自体がなかったので仕方のないことですが、今からでも親や教師は謝ってほしいと思ってしまいました。

そのころは療育というものも存在せず、平成初期の小学校では今思うと発達障害傾向のある児童が「問題児」として扱われ、虐待にあたるような体罰を受けるケースが珍しくなかったように思います。  私もそのうちの一人。小1の頃から算数だけが危うく、小3になってからは本格的についていけなくなり、算数ができないことで教師にげんこつをくらったり校庭を走らされたり、厳しく怒られたりしていました。そのため学校が大嫌いになり、わざと学校を休もうと冬の寒い日に薄着で家の縁側に出て風邪をひこうとしたこともありました。

作文で見つけた自信と可能性

一方で、算数以外の教科はむしろできる方でした。特に国語はずば抜けており、小3まで国語の教科書は1冊丸暗記できるほど。作文を書くことも大好きでした。教師が私の作文を学級通信に載せるためにコピーしていたのを覚えています。

そして、小6のときに親の転勤で転校した先の学校が作文教育に力を入れており、そこでさらに作文能力が開花されました。作文コンクールに出せば必ず賞を取り、作文だけは自信がつくようになったのです。 中学に入ると、将来は文章を扱う仕事に就きたいと夢見る ようになり、今のライターという職業につながっています。

私大文系クラスで成績急上昇!

しかし、いくら作文ができたといえ、数学はどんどん難しくなり全くついていけません。中高一貫校だったので高校受験がなかったのは幸いでしたが、高校の数学のテストは常に赤点……。補習を受けたり課題の提出点を稼いだりしてなんとか落第を免れていました。

転機が訪れたのは高3で私立文系クラスに進んだときです。それまでは理系科目のせいで(化学も化学式が理解できなかったので)成績が中の下だったのが、文系科目だけになると私立文系クラスで2番になったのです。初めての好成績に気分が上がり、鼻歌を歌いながらお風呂に入ったのを覚えています。

大学は希望通り文学部日本文学科へ進学。大学では自分の興味のある分野の勉強ばかりだったので、小中高大の中で一番大学が楽しかったです。小さい頃から読書が好きでしたが、高校生までは読書が好きな友達は一握り。しかし、大学に入ると同じ学科の友達はみんな私と同じくらいか私よりもたくさん本を読んでいたので、知的好奇心が満たされる、充実した時間を過ごしました。

苦手を捨てる勇気と学び方の選択

筆者は算数LDに苦労した子ども時代を経験しましたが、「苦手を手放す」という選択肢を取ることで、その困難を乗り越えることができました。現在では療育などのサポート体制が昔に比べて格段に充実していますが、それでもうまくいかないケースもあります。そのような場合、周囲の人々には「とにかく勉強を頑張れ」と努力を強いるのではなく、筆者のように苦手な教科を諦めたり、自分に合った学び方を見つけたりすることを選択肢として示してほしいと思います。

「苦手を回避すること」は決して「ただの逃げ」ではありません。それはむしろ、前向きで合理的な選択であり、子ども自身の可能性を広げるための重要な一歩になる場合もあると、自分の経験から私は考えています。

執筆者プロフィール

姫野桂

フリーライター。1987年生まれ。宮崎市出身。
日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをし、編集業務を学ぶ。卒業後は一般企業に就職。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブなどで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。猫が好き過ぎて愛玩動物飼養管理士2級を取得。趣味はサウナと読書、飲酒。

著書
『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)
『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)
『「発達障害かも?」という人のための「生きづらさ」解消ライフハック』(ディスカヴァー21)

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