ダウン症の概要、小児期の問題

【はじめに】

今、この原稿を書いている時点では都内の新型コロナ新患数は2週間ほど連続30人以下となり、およそ3か月前には5000人程度であったことを考えると激減ぶりに驚かされます。読んで下さっている皆様も、この2年間はコロナの流行に翻弄されて、さまざまな影響が出たことと思います。

ダウン症のご家族がおられる読者も多いとは思いますが、一方で、あまりご存じでない方もいらっしゃると思いますので、ダウン症を広くご理解いただきたく、基本的なことを2回に分けてご紹介しようと思います。

【ダウンの呼び名と歴史】

ダウンとは、下がる意味のダウンではなく、この症候群を初めて学術論文にした人が、イギリスの眼科医、John Langdon Haydon Downであったことによるものです。染色体の分析方法が登場する90年も前の話です。

(眼科医:Dr. John Langdon Haydon Down)

ダウン症候群は、22番まである常染色体の中で最も小さい21番染色体が余分にあることが原因です。全体の95%は標準型といい、受精前の配偶子(卵子または精子)の減数分裂が正しく行われないことが原因で、卵子形成時に起こる場合が多く、母の妊娠年齢の高さに相関します。

「症候群」とは、特定の理由により複数の症状が現れ、一定の概念でまとめられる疾患を指します。しかし、疾患イコール人間ではありません。日本では、疾患を持った人間そのものに焦点を当てた言葉としての「ダウン症」が繁用されています。他の症候群ではこのような使われ方をしないのは、教育分野を含む歴史と、人数の多さなども関係してきたと思われます。

このような背景から、学術的意味合いが強い場面ではダウン症候群、社会的側面に重点が置かれる場面ではダウン症と使い分ける傾向があります。さらに近年では、ダウン症を持った人、といった表現も使われます。言葉には、使う方の意図、ポリシーが現れるということです。ダウン症である前に、かわいい一人のお子さんであり、たまたま特徴的な体質を持っている社会の一員と考えることが必要です。

【症状と合併症】

顔立ち、小柄な体格、筋緊張の低下が特徴的で、先天性心疾患をはじめとした多彩な合併症を持ち、精神運動発達がゆっくりです。合併症は全く見当たらない方から、複数の手術や治療を必要とする方までかなりの個人差があります。

新生児期は、一部のお子さんでは呼吸管理、消化管の閉鎖や心臓病に対する手術など、緊急対応が必要となります。この時期に採血し、染色体検査を行い、診断が確定します。

乳幼児期早期には、耳鼻科、眼科、甲状腺ホルモンなど、ダウン症に特有の合併症のチェックをします。半数以上のお子さんは先天性心疾患を持っていますが、治療後は発達のスピードが向上します。点頭てんかんは治療開始が早いほど予後が良いため、早期発見が重要です。遠視や乱視が多く、眼鏡が必要となる方は高率で、早ければ2歳頃から使用します。

療育ではPT(理学療法)、OT(作業療法)、ST(言語聴覚療法)いずれのリハビリも大切です。地域の発達センターや私立の療育機関、当科でも取り入れているダウン症に特化した早期療育(ダウン症児の赤ちゃん体操)などが一定の効果を上げています。歩行開始は2歳頃が平均的で、意味のある言葉はその後になります。口腔機能の訓練は言語発達にも有効です。

3歳以降は感染症の頻度も減り、頸椎の亜脱臼傾向などがなければ、運動制限もなく、楽しく鍛えられます。新生児期に一過性の骨髄異常造血(TAM)が見られたお子さんは特に白血病の発症に気を付けます。滲出性中耳炎を起こしやすいので、かぜをひいたあとは時々耳鼻科も受診します。運動量が増えると便秘も解消する傾向になります。

保育園や幼稚園での集団生活も大変良い刺激となり発達を促進する面があります。ダウン症児のIQは40~50ですが、発達障害の合併や、身辺自立の程度、性格などを考慮し、普通級か支援学級かなど最適な就学環境を考えます。不適切であると、就学後に不適応を起こしている例も散見されます。

 

学童期は合併症が一段落するため、医療機関の受診頻度が減り、その間に滲出性中耳炎や肥満傾向の進行、丸呑み傾向に逆戻りといった変化がしばしば見られます。この時期の食習慣や運動習慣、経験の積み重ねがその後の人生に大きく影響しますので、定期的受診により合併症チェックとともに生活を見直します。小学校高学年になると、女子では月経も始まるため準備が必要となります。

ダウン症に発達障害の合併はしばしば見られますが個性として認め、知的障害に加え、自閉傾向や多動傾向に対する適切な指導を行うことが、二次障害の予防に有効です。

【将来に向けて】

ご家族の心配と不安は、目先の問題から数十年先まで、また合治療、療育、教育、兄弟のこと、親の仕事への影響、経済的な問題など実に幅広い内容です。ダウン症の方の平均寿命も60歳を越え、日本でも80歳を越える方がおられます。小児科の対象年齢を外れてからの人生のほうが、はるかに長い時代になってきました。
健康で、少しでも自立した生活が送れるように、小さいころから訓練を積み重ねていくことはとても大切です。
次回は、思春期、成人期以降の問題について述べてみたいと思います。

執筆者プロフィール

小野正恵(おの まさえ)

医師。
東京逓信病院で39年間小児科診療を行ってきた中で、ダウン症のお子さんの診療に力を入れることとなった。ダウン外来を開き、早期療育のひとつである「ダウン症児の赤ちゃん体操」を導入し好評を得ていたが、思春期、さらには成人以降を含めた人生を一貫してサポートする医療体制が乏しいことを実感した。
総合病院の強みを活かし、全科の協力を得ることとして、2018年10月に「東京ダウンセンター」を院内に発足させた。現在ではダウン症の方は0歳から60歳代まで1,000人以上が通院されている。2021年3月の定年退職後も非常勤としてダウン症の方に特化した診療を続け、各種学会において包括的診療・支援の必要性を発信している。

【資格】
小児科専門医、小児科臨床研修指導医、臨床遺伝専門医・指導医

【賞罰】
平成23年度 厚生労働大臣表彰

【論文】(2020年度 ダウン関連 日本語のみ)
1. 小児神経疾患の知識・看護 ダウン症候群(21トリソミー)(解説/特集)
小野 正恵、 こどもと家族のケア 15巻5号 Page20-25(2020.12)
2. 【ダウン症児の育ちと生活】ダウン症のある子ども(解説/特集)
小野 正恵 チャイルド ヘルス (1344-3151)23巻7号 Page478-481(2020.07)
3. クリニカルガイド小児科 専門医の診断・治療 南山堂 編集 水口雅、山形崇倫
分担執筆 小野正恵 ダウン症候群 p.360―366 2021.3 ISBN978-4-525-28861-7

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