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心理的虐待になってない?子どもの「できないこと」を責め立てないで

2024.09.11

9月2日に新刊『心理的虐待〜子どもの心を殺す親たち〜』(扶桑社新書)を刊行しました。こちらでは心理的虐待サバイバー7名の体験談、脳科学的に見た心理的虐待の影響、心理的虐待にならないようにするにはどうすればいいのか? 悩む親に向けての気をつけるポイントなどを各所に取材し、レポートしました。子育てに悩む親と、心理的虐待で人知れず苦しむ子どもたちが一人でも減りますように……  。

取材をしていく中で、親御さんが子どもの発達障害に気づかないことが原因で、心理的虐待にいたっていた、というケースが多くあったので紹介させてください。

『心理的虐待〜子どもの心を殺す親たち〜』(扶桑社新書)姫野 桂著

心理的虐待とは

児童虐待防止法第2条において「児童虐待」は①身体的虐待②性的虐待③ネグレクト④心理的虐待の4つと定義されていますが、そのうち近年児相への相談件数が6割にまで上っているのが心理的虐待です。

児童虐待防止法では心理的虐待について下記のように説明しています。

児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

参照:厚生労働省のホームページより児童虐待の防止等に関する法律(平成十二年法律第八十二号)

 

身体を傷つけなくても、児童の心を著しく傷つける言動は「心理的虐待」と虐待の一種だということです。

具体的には

  • 「どこかへ行ってしまえ」「あんたなんか産まなきゃよかった」といったひどい言葉で怒る
  • あまり好きでない習い事など子どもの気持ちを考えずに押し付ける
  • 話しかけられても無視する
  • 「お兄ちゃんは勉強ができるのになぜあなたはできないの?」「●●ちゃんのほうがいい子」といったきょうだいや友達と比べる
  • 子どもの前で両親が喧嘩をしたり暴力を振るったりする

などです。

一見するとこれは昭和の家庭では当たり前、このような言動を子どもにしてしまった人や幼い頃に親にされたことがある人も多いと思います。しかし、現代ではこれが心理的虐待という虐待の一種にあたると定義されたということです。  

どうしても「できないこと」は発達障害が原因の可能性も?

心理的虐待のサバイバー※に取材をしていると発達障害やその特性への親の無理解が原因で親が子どもに(実を結ぶはずのない)努力を強いて心理的虐待を行っているケースが数多く見受けられました。※編集部注 子どものころに虐待を受けていた人たちは「虐待サバイバー」と呼ばれることがあります。

例えばAさんは、親がAさんのことを将来ピアニストにしようとしてピアノを習わされていました。しかし、Aさんには発達障害の一種の算数LDがあり、譜面の小節が数字に見えてしまい、譜面を読むことが困難でした。それなのに一日5〜6時間も練習させられ、うまくできないと夕飯抜きにされていたのです。その結果Aさんは非行に走り、最終的には薬物依存症に陥ってしまいました。  

心理的虐待で受けた心の傷は大人になってもひきずる人が多く、専門家によると心理的虐待を受けた子どもはうつ病や依存症を発症するケースが高くなるとのことでした。子どもの心を壊す心理的虐待の深刻さがよく分かります。

子どもがどうしてもできないことがある場合、発達障害を疑ってみる

子どもに何度注意しても落ち着きがない、学習面で著しく漢字が覚えられなかったり簡単な計算ができなかったりする場合、怒って無理やりやらせるのではなく、子どもに発達障害はないか疑ってみることも重要です。もし、発達障害だった場合は早めに適切な療育を受けることをおすすめします。

先ほどのAさんも、親に発達障害についての知識があり、Aさんにピアノの練習を無理強いしなければ、非行に走らず薬物依存症に陥らなかったことでしょう。(Aさんは現在、精神科に通って依存症回復のプログラムを受けて回復中です。)

よかれとおもって頑張らせたことが「心理的虐待」になって大切な我が子のことを、精神疾患を発症するほど傷つけてしまうなんて、たいていの親御さんは望んでおられないはずです。  

できないことを叱責しないでできることを褒める

誰にだってできないことや苦手なことはあります。でも、厳しく叱りつけるのではなく、できないことよりできることを褒めるようにしましょう。特に発達障害の場合、凸凹の障害ですので、できることはグンと伸びる可能性があります。

例えば筆者には算数LDがあり、繰り上がり・繰り下がりのある暗算や%の計算がいまだにできません。

そんな筆者ですが、小学生の頃に作文に力を入れている学校に1年間だけ転校したことがありました。もともと文章を書くのは好きだったのですが、転校先の学校で特別な指導を受けたら、私の文章力はぐんぐん上がり、作文コンクールに出せば必ず賞を取れるようになり、それが自信にもなりました。  そのおかげで今も、文章を書く仕事に就けています。

幸せな子ども時代のために

子どもが何かできないと親はイライラしてつい厳しい口調で怒ったり、誰かと比べたり、とにかく何度も何度も練習させたりしがちです。しかし、子どもは想像以上に傷ついています。

もし、どうしても子どもができないことがあったら、  一方的に叱責したり、無理やりやらせたりする前に、その子ができない理由を探ってみてください。もしかするとそれは発達障害由来の「できない」かもしれません。もっと適切な関わり方があるかもしれません。そのような視点を持てる親御さんが増えれば、心理的虐待に苦しみ心を病む子どもが減るのではないでしょうか

一人でも多くの子どもが幸せな子ども時代を過ごせることを祈っています。

執筆者プロフィール

姫野桂

フリーライター。1987年生まれ。宮崎市出身。
日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをし、編集業務を学ぶ。卒業後は一般企業に就職。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブなどで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。猫が好き過ぎて愛玩動物飼養管理士2級を取得。趣味はサウナと読書、飲酒。

著書
『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)
『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)
『「発達障害かも?」という人のための「生きづらさ」解消ライフハック』(ディスカヴァー21)

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