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「親なきあと」ときょうだいの関係

■きょうだいたちに叱られました…

我が家には重度の知的障害者の娘がいますが、3歳上の姉は同じ区内で一人暮らしをしています。以前、障害当事者のきょうだいの会の方たちとお会いしたときに「渡部さんのところはお嬢さん二人のなんですよね。渡部さんは妹さんのことについて、お姉さんとどんな話をしていますか?」と聞かれたことがありました。

「姉には姉の人生があり、負担をかけるつもりはないので、特に何も話していません」と答えたところ、「それは間違っています!」と叱られたという経験があります。それから、きょうだいについて改めて考えるようになり、彼ら彼女らの気持ちを聞く機会を、意識的に持つようになりました。

■きょうだいと情報共有することが大切

障害のある子にきょうだいがいる場合、そのきょうだいが障害のある子を支えてくれるだろうか、負担をかけることになるのでは、と悩む親が少なくありません。

障害者のきょうだいは、年齢も近く、本人の特性もよくわかっているので、強力な支援者です。親御さんが「自分がいなくなった後は、障害のある子のことはきょうだいに託したい」という願いを抱いてる場合、直接話はしなくても、親の気持ちをよく知るきょうだいは、「私がめんどうをみよう」と親を安心させようとしてくれがちです。それ自体は嘘偽りのない言葉でしょうが、「めんどうをみる」の具体的なイメージを持たないまま口にしていることが多いのではないでしょうか。

「めんどうをみる」と言ってくれていたとしても、きょうだいにだって自分の生活や家庭があります。サポートするつもりがあっても、きょうだい自身の家庭に病気やリストラなどのトラブルが起きたりすると、サポートができなくなる状況になるかもしれません。

これとは逆に、親が先回りして「あなたは心配しなくていいよ、この子のことは私たちがちゃんと準備しておくから」と言ったりすると、きょうだいからすれば「私も同じ家族として一緒に将来のことを考えたいのに」と淋しく思うかもしれません。私を叱ったきょうだいの方は「家族の中で疎外感を感じる」とおっしゃっていました。

親が亡くなったあとも、きょうだいの付き合いは長く続くのです。たとえ本人に成年後見人がついたとしても、医療の場面、相続の場面などで、関わりは必ず続きます。

重要なことは、「めんどうをみてほしい」あるいは「あなたは心配しないでいい」と親御さんが一方的に言うのではなく、きょうだいに相談して、情報を共有して、どうすればいいのかをきょうだい自身に考えてもらうことだと、きょうだいの方たちの話を聞いて痛感した次第です。

■きょうだいの有無で制度を利用する時期が違ってくる

親子とも高齢になってくると、子どもの将来のためにどんな準備が必要なのか、具体的に考えなくてはならなくなります。きょうだいがいる家族といない家族で、考え方に少し違いが出てきます。

親がめんどうをみられなくなったときには、子どもの財産はだれが管理するのか、福祉サービスの利用やグループホームなど住まいの契約はだれがするのかといった課題が出てきます。

きょうだいがいると、重要な契約を結ぶときはきょうだいに依頼できるかもしれません。その場合、財産の管理は信託や日常生活自立支援事業などの制度を利用したりすれば、親が亡くなってもしばらくは成年後見制度を利用せずにすみます。一人っ子の場合は、少し早めに後見制度や信託などの利用を検討する必要が出てきます。

 

★きょうだいがいる家族といない家族の違い

 

【財産管理の選択肢】

〇きょうだいがいる家族

・成年後見制度を利用するタイミングを、きょうだいに託する

・後見制度を使わない場合、相続財産などの高額な資産はきょうだいに管理をお願いする

・きょうだいの負担が大きい場合は、信託で管理する、または日常生活自立支援事業を利用する

・成年後見制度の利用は、きょうだいが後見人を受けてくれればお願いする、難しければ専門職や法人などに依頼する

〇きょうだいがいない家族

・信託や日常生活自立支援事業の利用を早めに検討する

・成年後見制度についても、後見人を頼める人がいるか、いつから利用を始めるかなどについて、親が元気な間に検討する

【契約についての選択肢】

〇きょうだいがいる家族

・福祉サービスやグループホームの利用契約のときに、きょうだいに手続きを頼めるようであればお願いしておく

※ただし施設によっては成年後見人等が必要になる場合もあります

〇きょうだいがいない家族

・契約には成年後見人等が必要になるので、やはり早めに検討する

【そのほか】

〇きょうだいがいる場合

・障害のある子の将来について、きょうだいがどういった支援ができるのかを確認しておく

・通所・入所施設の法人、計画相談事業者やケースワーカーなど、どんな人たちが本人に関わっているかをきょうだいに伝えておく

〇きょうだいがいない場合

・本人に関わっている人たちに加えて、ご近所づきあいや社会福祉協議会、民生委員など、なるべく多くの人たちとの交流を続けて、親なきあとに本人が孤立しないようにしておく

 

執筆者プロフィール

渡部伸

1961年生、福島県会津若松市出身
「親なきあと」相談室主宰
東京都社会保険労務士会所属。
東京都行政書士会世田谷支部所属。
2級ファイナンシャルプランニング技能士。
世田谷区区民成年後見人養成研修終了。
世田谷区手をつなぐ親の会会長。

主な著書
障害のある子の「親なきあと」~「親あるあいだ」の準備
障害のある子の住まいと暮らし
        (ともに主婦の友社)
まんがと図解でわかる障害のある子の将来のお金と生活(自由国民社)
障害のある子が安心して暮らすために~知っておきたいお金・福祉・くらしの仕組みと制度(合同出版)

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