できるだけ成年後見制度を利用したくない場合

後見制度は障害者には向いていない!

障害のある子の親御さんたちの多くは「障害のある子に成年後見制度は向いていない」とおっしゃいます。その最大の理由は、成年後見制度を一度始めたら、ほとんどの場合本人が亡くなるまでやめられないということだと私は考えています。

後見制度そのものが悪いとは思っていません。本人の権利を守るためには必要な制度です。ただ、後見人を身近に頼む人がいなければ家庭裁判所に選任をお願いすることになります。もちろん、裁判所も責任をもって実績のある専門職などを指名するでしょうが、子どもの将来を託す人がどんな人になるのかがわからないという不安は残ります。親が面接して自分たちで選べるわけではありませんからね。

そしてもう一つの大きな問題は、後見に関わる費用です。専門職が就任した場合、後見報酬を長期間払わなくてはいけなくなり、障害基礎年金や工賃などを足しても決して多くはない本人の収入がさらに少なくなってしまい困っている、という声も耳にします。

さらに親族が後見人に就いて報酬は受け取らない場合でも、家庭裁判所から後見監督人が選任されて報酬の支払いが発生するという可能性もあります。

後見報酬や後見監督報酬は、活動に対して支払われる正当な費用だと私は思っています。後見人の報酬は、家庭裁判所がケースに応じて決定しています。さらに、その額もオープンになっています。

たとえば東京家庭裁判所では、通常の後見事務を行った場合の後見人の報酬は月額2万円、後見監督人の報酬は1~2万円としていて、被後見人の管理財産額が高額の場合や、身上保護等に特別困難な事情があった場合などは、その報酬額が増える、という目安をホームページ上で公表しています。勝手に金額が決められているわけではないのです。

しかし収入が多くない障害者の場合、この金額は結構な負担です。親がめんどうをみていれば、このお金は払わなくてもすむわけですね。であれば、できるだけ成年後見制度は使わないでおこう、と考える方が多くなるのはいたしかたないのかなと思います。

ギリギリまでめんどうをみるために

いずれは成年後見制度を利用しなくてはいけないのだけれど、すぐには使いたくない。できればギリギリまで子どものめんどうは自分でみたい…そのようにおっしゃる親御さんは多いです。ただ、自分がめんどうをみられなくなるのはいつからなのか、自分で判断することは難しいと思います。

それなら、周りに気づいてもらうことが必要です。そのためには、たとえば親子で暮らしているうちから居宅介護や日常生活自立支援事業を利用して、支援者など外の目を入れることも重要です。

しかし何より大切なのは、障害者本人はもちろん、親自身が住んでいる地域や仕事、同じ障害を持つ家族などたくさんのつながりを持っておくことです。

40代の障害のある子と母親の二人家族がいました。お母さんは子どもの将来のためにいろいろな制度を勉強していたようですが、近所づきあいはなく、子どもも日中活動には行っていませんでした。あるとき母親が倒れてしまいましたが、子どもは誰にも連絡をとることができず、家にある食べ物で何とか食いつないで、どうしようもなくなって外に助けを求めたときには、母親が亡くなってから約1か月が過ぎていたそうです。

子どもの将来の生活を支えるために、制度を知ることはとても大切です。でも、親がいくら勉強していても、その親が倒れ、誰もそのことに気づかなければ何もできません。制度は制度でしかない、制度を使う人がいなければ意味がないのです。

このようなことにならないために、ご近所づきあいはもちろん、地域の家族会、趣味のサークル、もちろん福祉事業者や民生委員など、たくさんのつながりを持っておいてほしいのです。

「最近あのお母さん元気ないね」「あそこのお父さん集まりに来なくなったけど、ちょっと連絡してみようか」。大ごとになる前に、ちょっとした異変にも気づいてもらいやすくなります。

このつながりが本人たちを救ってくれますし、つながりがあることで、他の誰かを救うことができるかもしれないのです。

私が「親なきあと」の相談で一番大切にしているのが、障害者本人やご家族と地域とのつながりを作ることです。そしてこれさえあれば、親が障害のある子のめんどうをみられなくなっても「何とかなる」と思っています。

 

新しい取り組み~「親なきあと」後見

こういった異変に気づいてもらえる状況を、しっかりした仕組みで実現したいと考えて作ったのが「親なきあと後見」という契約です。これは親が信頼できる第三者とのあいだで、任意後見と見守りとをセットで契約するものです。

親が元気な間は定期的に電話や訪問による見守りを行い、認知症の疑いが出たら医師の診断を受けて任意後見に移行します。そして任意後見契約には、子どもの後見申立ての働きかけや、日常生活自立支援事業の利用アドバイスなど、次の支援につなげてもらうことを契約事項に入れておきます。

これによって、親の見守り➡判断能力の低下を把握➡任意後見契約発効➡親は任意後見人から支援を受けると同時に、子どもの必要な支援につなげるという、切れ目のない支援が可能になります。

以前から構想していた仕組みなのですが、具体的に動いてくれる法人がなかなか見つからず形にできないでいました。しかし、「親なきあと」相談室の活動もしている「あしたパートナーズ」が、この仕組みで動いてくれることになりました。ご興味のある方は、直接メールにて連絡してみてください。

一般社団法人あしたパートナーズ Mail:contact@ashita-partners.com

執筆者プロフィール

渡部伸

1961年生、福島県会津若松市出身
「親なきあと」相談室主宰
東京都行政書士会世田谷支部所属
2級ファイナンシャルプランニング技能士
世田谷区区民成年後見人養成研修終了
世田谷区手をつなぐ親の会会長

著書
障害のある子の家族が知っておきたい「親なきあと」
障害のある子が「親なきあと」にお金で困らない本
(ともに主婦の友社刊)

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