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「20歳前の傷病による障害基礎年金」について~よくある質問より

特別支援学校を卒業後の「お金」について、疑問や不安を抱える親御さんは少なくないのではないでしょうか。このコラムでは特別支援学校在籍生徒の保護者から「障害年金」についてよく受ける質問とその回答をまとめてみました。同じような疑問を持っている方々のご参考になれば幸いです。(主に、知的障害があるお子さんのいらっしゃる親御さんを念頭にまとめています。)

1.障害年金の基礎知識

障害年金の受給要件やもらえる金額、その他の給付金についての基礎知識をまとめました。

障害年金はどのような人がもらえますか?

障害年金を受給するには、1.法令で定める障害の状態であること(障害状態要件)、2.障害の原因となった病気やケガで初めて医師の診療を受けた日の前日に公的年金の被保険者であったこと(初診日要件)、3.保険料を納付していること(保険料納付要件)、この3要件を満たしていることが条件となります。  なお、知的障害など生まれつきの障害の場合、20歳前で国民年金に加入していなくても、障害認定を受ければ20歳になったら「20歳前の傷病による障害基礎年金」を請求することができます。(20歳になったらすぐに障害年金を申請することができます。)

障害基礎年金の金額はいくらですか?

障害の程度によって異なります。常にだれかの援助がなければ日常生活をが送ることができない場合は1級、日常生活に大きな支障がある場合は2級となります。2025年度の金額は月額で2級69,308円、1級86,635円で、この金額は毎年見直しがなされます。

年金のほか、年金生活者給付金というものがあると聞きました。

一定の所得以内の障害基礎年金受給者に、年金と一緒に支給される給付金です。金額は2級5,450円、1級6,813円(2025年度)で、この金額も毎年見直しがなされます。

2.障害年金の支給条件と影響

就労と障害年金の関係について心配される方が多いです。また、生活保護費と障害年金の併用についてもよくご質問いただきます。

所得によって障害年金が支給停止になることはありますか?

上記の「20歳前の傷病による障害基礎年金」には、受給者本人の所得による支給停止の規定があります。前年所得472.1万円で全額、370.4万円で半額が支給停止になります。本人の預貯金は無関係、同居している親の所得も無関係です。

この所得とは、収入から必要経費を差し引いた額なので、就労して給与を受け取っている場合の額面や手取り額とは違います。たとえば毎月の給与の額面が40万円であれば1年間の収入は40万円×12か月=480万円。必要経費は給与所得控除額の計算式により140万円となり、これを引いた340万円が給与所得となります。この金額は半額支給停止になる所得の基準額(370.4万円)以下なので、支給制限には引っかかりません。ちなみに、遺産や保険金などの収入もほとんどの場合は支給停止の対象外です。

働いていると年金はもらえない?

企業などで働いていても年金の対象になります。特に障害者雇用枠での就労であれば可能性は十分で、実際に多くの方が働きながら障害基礎年金を受給しています。

とはいえ、働いている状況によっては、障害状態が軽いとみなされ、年金が受給できないという可能性はあります。そこで、就労に関しての苦労などがあれば、診断書や申立書でしっかり伝えることが必要となります。

たとえば就労の状況については、職場からの意見書なども有効です。仕事内容は単純かつ反復的なものか、常時の管理・指導は必要かどうか。職場でのトラブルや本人の困りごとなども、第三者の立場で証明してもらうと、年金判定の参考にしてもらえるのではと思います。

生活保護費と障害年金は両方もらえるのでしょうか?

障害年金を受給した場合、その金額は生活保護費から差し引かれることになります。つまり、障害年金を受給していても、受け取れる総額は生活保護費と同じです。

ただし、生活保護費は資産や収入によって減額されることがありますが、障害年金は「20歳前傷病による障害基礎年金」の支給停止に当てはまらない限り、収入による減額はありません。生活基盤を整える意味で、障害年金を受給することは大切です。

3.申請と手続きに関する情報

「20歳前の傷病による障害基礎年金」はお子さんが20歳になったらすぐに申請することができます。予習として、申請手続きについてまとめました。今から準備できることもありますのでぜひお読みください。

生まれつきの知的障害で、障害年金を申請する際に準備することはありますか?

障害年金の判定の際に重視されるのは医師の診断書です。知的障害と精神障害の場合の診断書は、精神科を標榜する(看板に書いてある)医師が記入するのが原則です。また、小児科、内科などの医師でも、知的や発達障害の診断や治療に従事していれば、作成することは可能です。ただし、全ての医師が書いてくれるとは限らないので、診断書作成をお願いできるか、確認しておいてください。もし現在主治医がいないようなら、早めに見つけて定期的に受診しておくようにしてください。

もう一つ重視される書類として、病歴・就労状況等申立書があります。これは、発病から初めて病院で診療を受けるまでの経過、その後の病院の受診状況および日常生活や就労状況などについて記入する書類です。申請時に一から書こうとしても思い出すのがなかなか大変なので、ノートなどにその都度記録しておくことをお勧めします。

手帳の度数と年金の関係は?

療育手帳がA2(東京都は愛の手帳の2度)だから年金がもらえる、特別児童扶養手当の1級をもらっているから障害基礎年金ももらえる、ということはありません。手帳と手当と年金は基本的には無関係です。

ただし、申立書に障害者手帳についての記入欄はあるので、持っていることは参考にしてもらえます。いずれにしても、障害者手帳はあって困ることはないので、本人や家族がどうしても嫌という場合以外は、取得しておいてください。

診断書を依頼する際のポイントは?

年金がもらえるかどうか、1級か2級かの等級判定は、医師の診断書に大きく左右されます。その中でも、「日常生活能力の判定」「日常生活能力の程度」の評価を組み合わせたものが障害等級の目安になるので、ここをしっかり医師に書いてもらう必要があります。

とはいえ、医師自身が本人の生活状況を直接見ることはないので、本人や家族に質問して評価することになります。必ずしもすべての医師が年金の診断書を書き慣れているとは限らないので、不安がある場合、診断書の内容に沿って、本人の普段の状況をあらかじめ書面にまとめて医師に渡してください。

たとえば日常生活能力の判定は、食事、身辺の清潔保持などの7項目について、以下の4段階評価となります。

  • できる 
  • 自発的にできるが時には助言や指導を必要とする
  • 自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできる 
  • できない

書き慣れていない医師だと、本人に「ごはんは一人で食べられますか?」と単純に聞いてしまい、「はい、食べられます」と答えるかもしれません。でもこの項目は、単に食べられるかどうかを聞いているのではなく、一人で生活している場合に可能かどうか、量や栄養のバランスを考えたり、適切な時間帯に食事をとったりできるか、などで判定するものです。こういった情報を、診断書を作成する医師にしっかり伝えることが、年金受給のためには大切です。

判定結果に納得できない場合はどうすればいいですか?

障害基礎年金、障害厚生年金の審査決定は、東京にある日本年金機構障害年金センターで行われています。 

年金の決定に不服がある場合、3か月以内に地方厚生局の社会保険審査官に審査請求ができます。さらにその決定に不服がある場合は、厚生労働省の社会保険審査官に再審査請求ができます。この決定にも不服がある場合、裁判所に提訴することができます。

こういった手続きを親など家族だけで行うのは負担が大きいので、障害年金を専門に扱っている社会保険労務士に相談するという方法もあります。

4.年金支給後の対応

知的・発達障害の場合、最初の申請で年金支給が決まっても、永久にもらえるのではなく、多くの場合は1~5年の期間限定となります。注意点をまとめました。

有期年金になった場合の注意点は?

知的・発達障害の場合、最初の申請で年金支給が決まっても、永久にもらえるのではなく、多くの場合は1~5年の期間限定となるため、更新時に、再度医師による更新状態確認届(診断)の提出が必要となります。次回の提出でこの内容が変わっていると、障害が軽くなったとみなされ1級が2級になったり、年金が停止になったりという可能性があります。

そこで、大きく状態が変わっていなければ、診断書はできるだけ同じ内容にしてもらいましょう。更新時の診断書を作成してもらう医療機関が、初回と変更になる可能性もあるので、最初に提出する診断書のコピーはぜひとっておいてください。封緘してあっても、開いてコピーを取ってまったく問題ありません。

なお、最初の申請時の診断書を小児科の医師に書いてもらうような場合、更新時には20歳を数年過ぎているので、もう書いてもらえなくなる可能性があります。その場合は、次の主治医を早めに探しておく必要があります。

以上、お役に立てれば幸いです。

 

執筆者プロフィール

渡部伸

1961年生、福島県会津若松市出身
「親なきあと」相談室主宰
東京都社会保険労務士会所属。
東京都行政書士会世田谷支部所属。
2級ファイナンシャルプランニング技能士。
世田谷区区民成年後見人養成研修終了。
世田谷区手をつなぐ親の会会長。

主な著書
障害のある子の「親なきあと」~「親あるあいだ」の準備
障害のある子の住まいと暮らし
        (ともに主婦の友社)
まんがと図解でわかる障害のある子の将来のお金と生活(自由国民社)
障害のある子が安心して暮らすために~知っておきたいお金・福祉・くらしの仕組みと制度(合同出版)

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