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常同行動が問題行動になるとき、ならないとき

常同行動とは、自閉症や知的障害、統合失調症に多く見られる手をひらひらさせたり、身体をリズミカルに動かしたりする一見無目的に繰り返される行動です。はたから見たら異様に見えるので、止めさせたい親御さんも多いかと思いますが、本人が精神の安定のため行っていることもあるので、無理矢理止めさせない方がよいと私は思っています。ただ、他人に迷惑をかける常同行動には悩みます。

私は週末、移動支援の仕事をしています。同じ場所で固まったりジャンプしたり、空気に指でスラスラと何か書いていたり、常同行動にふけっている人は多くいます。これらは自己完結できているため、社会的には特に問題にはならない常同行動だと私は考えています。

ところが、そうではないケースがあります。

ある日、 自閉症のある成人男性を担当しました。その人は大きな声を度々出す人です。公共の交通機関の中で絶叫されると、ヘルパーとしては本当に困り果ててしまいます。

本人も大声を出したくて出しているわけではありません。静かにできている時は褒め、大声を出したら何度も注意。バスは混んでしまうので、比較的すいている電車を選び、周りに誰も座っていない席に座らせます。また、時間がかかっても、駅と駅の間隔が短い各駅停車を選ぶという工夫もします。あまりにも大声が続くようであれば途中で電車を降りたり、飴やガムを食べさせ気分転換をはかったり。保護者の方も主治医と相談して薬の調整をしたりと大変苦労されていました。

どうしたらいい?

私はいびき防止に口に貼るテープを使って寝ています。これを貼ると口呼吸が避けられいびきが軽減するからです。

声を出す人にこれを貼ってみてはどうだろうかと思いました。物理的にテープを貼った方が自閉症の人にはわかりやすいかもしれないとふと考えたからです。

でも、保育園で騒ぐ子どもの口にガムテープを貼っていた保育士が虐待保育士としてニュースになっていました。「私もそれと同じだな…」と思い実行することはありませんでした。

「障害者は公園にでも行け!」と言われた

ある日の移動支援中、駅(屋外)でその人が大声を出しましたが、レストランでも電車内でもホームでもなかったので、私はここで声を出すことに対して特に注意をしませんでした。電車に乗る前に思い切り出させて、“電車内では静かにする”という約束をさせようと考えたからです。

すると見知らぬお爺さんがやってきて、私に「あんた、静かにさせんか!」と怒鳴りつけてきました。

私は「障害があるんです。静かにさせることが出来たら、誰も苦労はしませんよ!ご本人だって困ってるんです。それから、ここは外ですよね」と言い返しました。するとお爺さんは「ここも駅構内だ!電車に乗らないで、障害者は公園にでも行け!」と怒鳴りました。私は「公園だって小さい子もいますよ!なんでそんなこと言うんですか!」と言い返してしまいました。

お爺さんは去って行きました。私は心の中で「クソジジイ!」と叫びながら、ご本人と電車に乗りました。

お爺さんとのやりとりについて

後にそのことを同僚のヘルパーに話したら

「立石さん、それは間違った対応だよ。悔しくてもそこはグッとこらえて、お爺さんに謝罪すべきだったよ。利用者さんだって不安になるし」と言われました。私は自分の感情をぶつけてしまったことを、反省しました。

障害の重さではなく、問題行動の重さ

知的障害は軽度の自閉症の人、例えばIQが50以上あり、電車を一人で利用でき、お金の計算ができても……他害が激しかったり、突然大声をだしたりする問題行動が多いと、企業就労はおろか、就労移行支援事業所からも拒否され更にB型作業所からも拒否され、たらいまわしになってしまうことがあります。

どうしてかというと、就労移行支援事業所やB型作業所は社会福祉法人や民間企業が運営しているケースが多く、スペースはそう広くなく、限られた空間を感覚敏感のある人や精神障害があり不安定になりやすい人も利用するため、彼らに悪影響を与えることが考えられるからです。

自分の子を不安定にする子が同じ通所施設にいれば

「ケガをさせられた」「奇声を発する○○さんがいるため我が子が不安定になって、睡眠障害が激しくなってしまった」

となり、クレームになります。

そうなると、事業所も他害、奇声のある人を受け入れることが難しくなります。障害の程度以上に問題行動の有無が、受け入れ施設の有無を決める現実があります。

 近年、国は、大きな施設をつくって障害者を囲うのではなく、地域で暮らせるように方針を転換しました。でも、知的に最重度で強度行動障害のある人を受け入れてくれる施設はなかなかないのが現実です。

何とか解決法はないものかと思います。


 

執筆者プロフィール

立石美津子(たていし みつこ)

著述家
20年間学習塾を経営、現在は著者・講演家として活動。
自閉症スペクトラム支援士

『一人でできる子が育つテキトーかあさんのすすめ』
『はずれ先生にあたったとき読む本』
『子どもも親も幸せになる発達障害の子の育て方』
『動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな』
など著書多数

日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞作『発達障害に生まれて(ノンフィクション)』のモデル
Voicy  https://voicy.jp/channel/4272
オフィシャルサイトURL https://tateishi-mitsuko.com/
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