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知的障害・自閉症のある方のワクチン接種とインフォームド・コンセント

2021.08.10

新型コロナウイルス感染症の流行が続いています。根本的解決策は治療薬の開発・普及ですが、その前にワクチン接種が大きな役割を果たしてくれると期待されています。皆様はどうされているでしょうか?

すでに接種を済まれた方、予約された方、迷っている方、様々な方がいらっしゃると思います。

私は救急医療を担当する医師ですから、3月に接種しました。注射翌日の左肩の痛みは想像以上でしたが特別な副反応はなく、周囲の医師とも「肩が痛くて動かない」という話をしながら、通常通り仕事ができました。その後、自治体の集団接種会場で、問診業務も何回か行いました。

そして現在は、私が運営している知的障害・自閉症支援の福祉施設の利用者・職員合計約150人のワクチン接種を実施中です。

このコラムでは、知的障害・自閉症のある方へのワクチン接種についてお話します。

◆ワクチン接種の有効性

流行を軽減するためにはワクチン接種をした方が良いことは明白だと思います。

昨年前半、イギリスでは、多くの国民が感染することにより、集団免疫をつけて流行を収めようという方針で、マスクもつけず、行動制限をせずに対応していました。しかし結果は、集団免疫は確立せず、新型コロナの大流行が起こりました。このままでは多くの人が亡くなる、ということでワクチン接種への全力傾注へ方針転換しました。

日本や世界の統計を見ると、感染した場合の死亡率は2%前後と推定されます。

この死亡率や後遺症の出る確率に比べて、ワクチンの副反応によるそれの確率は極めて低いので、圧倒的に成功率の高い医療行為です。社会全体にとってもワクチン接種率向上が普通の生活を取り戻すために大きな役割を果たすことは間違いありません。

しかし、日本ではマスコミから接種後の副反応等の情報が大量に出回っており、政府への不信感も相まって、国民の心配をどんどん増長させています。確率が低くても自分がそれに当たる懸念が膨らみ、ためらう人がいることも当然だと思います。

◆知的障害・自閉症のある方へのワクチン接種

 

さて、冒頭にお話ししました通り、現在は運営している知的障害・自閉症支援の福祉施設の利用者・職員合計約150人のワクチン接種を実施中です。

今までのところアナフィラキシーや重大な副反応には遭遇していません。しかし、接種後すぐに気分が悪くなる人は少なからずいて、それは高齢者や障害者よりも、施設職員で比較的若い方に多いように思います。

知的障害・自閉症のある方の中には注射する前に倒れてしまう人もいます。注射の副反応というよりも、心配が大きく過度の緊張状態になっているように見受けられます。注射は痛いですし誰もが嫌いな医療行為ですが、ワクチン接種時の不安感の高まりには、事前に得た大量のマイナスの情報が影響している可能性があるのではないかと思います。

 

◆知的障害・自閉症のある方への医療の説明は可能な限りわかりやすく

一般的に知的障害・自閉症のある方への医療の説明と同意は不十分なことが多く、本人がよくわかっていない中で行われることが多いのが現実です。緊急時には、無理やり押さえつけて医療行為を行う場面さえあります。

しかし、予防接種は強制ではなく、希望する人のみです。本人が本当の意味で病気の症状、ワクチンの意義や副反応を理解していないかもしれません。本人がよくわからない中で同意してくれるとしたら、その信頼にこたえるためには、支援者側は正確な情報を集め、本人にとって最良な行為を選択し、慎重に計画を立て、それを説明する責務があります。余計な情報は不要で、接種後の痛みや発熱などを正確に把握するとともに、不安に思わないような説明が必要です。

◆長期的視野にたった準備を

私の福祉施設では毎年インフルエンザ予防接種などで培ったノウハウを活用しています。

①日常的に職員との信頼関係を築くこと

②安心できる場所で安心できる嘱託医によりいつもの仲間と一緒に接種すること

③うまくいったらとても褒めること

こうしたことにより、「次の機会にも自発的に医療を受けよう」という気持ちを積み重ねていくことができます。

可能な限りわかりやすい方法で説明する技術と、長期的視野に立った準備が必要なのです。

執筆者プロフィール

大屋滋(おおや しげる)

医師。総合病院国保旭中央病院 脳神経外科主任部長。千葉県自閉症協会会長。特定非営利活動法人あおぞら理事長。
NPO法人あおぞらは「障害のある人が、自らの権利が侵されることなく自分の意思に基づいて、その人らしく地域で暮らす」という理念を実現するため、利用者とその家族が必要とする福祉サービスを提供している。

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