fbpx

お問い合わせのご連絡は

0120-322-150

 平日9時〜17時(土日・祝日・年末年始を除く)

24時間
受付

お問い合わせフォーム

知的障害のある息子の投票 ~AI活用で選挙支援~

息子には自閉症・ADHDに加えて、中度の知的障害があります。18歳になってから初めての選挙で投票所入場券が自分あてに届いたときは、大人の仲間入りができてうれしかったのか、張り切って投票に行きました。よく分からないなりに、テレビからの情報で印象に残った候補者に一票を入れたようです。けれど一度経験してからは、選挙からは少し距離を置くようになっていました。

そこで迎えた2025年夏の参議院議員選挙。今度こそ「自分の意思で、きちんと選んで投票する」経験をしてほしいと思い、息子の特性に合わせて、選挙のしくみや候補者の違いを伝える準備を始めました。

今回は、知的障害のある息子が無理なく投票に参加できるように、親である私が行った具体的な工夫、またAIの活用方法についてご紹介します。

やさしい言葉と図で「選挙ってなに?」を伝える

特別支援学校でも選挙について学んだとは思いますが、あらためて、まずは基本的なところから伝えたいと思いました。もちろん難しいことを言ってもすぐ飽きてしまいますから、子どもでも分かるようなやさしい言葉を使い、視覚的に理解しやすいよう図を作りました。

伝えたいポイントは二つ。

  1. 選挙とは、国の大事なことを決める、日本中の人の代表を選ぶこと
  2. 今回は「地元選挙区の人を選ぶ」と、「政党を選ぶ」の2種類の投票があること

シンプルにするために、比例代表の候補者名選びはないことにしました。

実際に作った図。投票に必要と思える最低限の情報に絞りました。

候補者情報の整理はAIにおまかせ

地元の候補者は5人。この中からひとりを選ぶには、5人それぞれが何を訴えているのか知る必要があります。息子にも理解できるよう、各人の主張を読み込みまとめる作業はとても手間がかかります。そこで、私はAIを活用しました。

【知的障害者に選挙について教えます。今回の参院選における、〇〇(地元名)候補者それぞれの氏名とおおまかな主張を、分かりやすい言葉で一覧にしてください。ダウンロードできるよう、エクセルの表にまとめてください】

このように入力するだけで、AIがネット上から情報を瞬時に集め、数秒で表を完成させます。私はそれをダウンロードし、文字の大きさを整えたり顔の画像を挿入したりして、見やすいものに加工しました。

候補者の政策比較もAIでサポート。

AIと工夫して作った「小学生でも分かる」政策比較表

候補者の説明と同様に、各党の政策もAIにまとめてもらうことにしましたが、掲げている内容は多岐にわたるため、トピックを「物価高対策」「少子化問題」「医療・福祉問題」に絞りました。AIへの指示はこうです。

【政党名を行頭に。列頭に物価高対策、少子化問題、医療・福祉問題を置いて、各党の項目ごとの主張を小学生でも分かる言葉でエクセル表にまとめてください】

このように入力すると、またまたサクッと一覧が出来てきました。ところが主要な10の政党名が上がってきたので、読み比べるべきセルは30以上。いくら「消費税をなくして買い物を安くする」といったシンプルな表現でも、これでは息子が疲れてしまいます。

そこで、角度を変えてAIに指示を出し直しました。息子にとって身近なテーマである「消費税」と「福祉」に絞り、どのくらい力を入れているかを○△×の記号で表示することにしました。

【政党別に、参院選での主張について以下の基準で○△×をつけた表を作成してください。
・消費税について
○ゼロ △食料はゼロ ×10%のまま
・福祉について
○手厚い △まあまあ ×あまり触れていない】

こうして出来た表に、文字を大きくしたり、読みやすいよう色をつけるなどの加工を追加したものがこれです。

障害者に教えるという目的をAIに伝えてあったため、福祉についての考え方を補う列(右端)まで追加してありました。

息子が自分で候補者を選ぶまで。一票の行方は?

作成した図と表を印刷し、息子の調子がいいときに「選挙の勉強をしよう」と声をかけました。視覚的な情報はやはり有効で、プリントにはすぐ関心を持ってくれました。私から、図や表を指し示しながらの説明は5分ほどで終了。貧乏ゆすりをしながら(ストレスがかかりはじめた証拠)ではありますが、なんとか最後まで聞いてくれました。そして投票する候補者と政党を、その場で自分で決めました。

ここでひとつ、反省点があります。「地元候補者一覧」に、私は各候補者の顔写真を貼ったのですが、そのせいで息子はまず「顔」から入ったように思いました。ニヤニヤしながら、美しい女性を選んだのです。

外見で選んではいないかと指摘したことで、あらためて表を読んで、「復興に力を入れている人だから」という理由でその候補者に最終決定したようでした。

一緒に投票所へ。障害があっても「自分で投票」できた日のこと

投票当日。投票所入場券を持って、私と一緒に家を出ました。自分が決めた投票先を覚えているかと息子に確認すると、ちゃんと覚えていました。
私はすでに期日前投票を済ませていたので、投票所では受付の方にヘルプマークを見せながら、サポートのため入場する旨を伝えました。
投票の流れも事前に伝えていたので、私からの声かけは「書いた紙は半分に折ってここにいれてね」くらい。息子は説明に従って、問題なく投票することができました。
開票の結果、当選したのが息子の選んだ候補者だったため「○○くんの選んだ人が当選したよ! すごいね、○○くんの1票の効果があったね!」と伝えると、ちょっとうれしそうにしていました。

実はこんなにある!障害のある人のための選挙サポート

今回私は介助人として、息子と一緒に投票所に入場することを許されましたが、入場できるかどうか調べたときに、障害がある方が選挙に参加しやすくなる支援がいろいろあることを知りました。

例えば視覚障害のある方には「点字投票」、文字の書けない方は「代理投票」を利用し代筆してもらうこともできますし、投票所へ行けない方は「郵便投票」という手段もあります。「移動支援」を提供している自治体もあるようです。

投票は高いハードルと思っている方も、実際はサポートを受けられることが多いのではと感じました。

支援は完璧でなくてもいい――AIと小さな工夫で広がった選挙参加の可能性

このたびの選挙について息子に知ってもらうにあたり、いちばん面倒な資料づくりをAIにまかせたことは、実に効率的でした。「表にまとめるための情報」を自動でネット上から収集してくれますし、知的障害者向けのサポート説明であることを配慮までしてくれました。

今回1枚目の画像はAIに頼らず自作しましたが、上手にやれば1枚目の画像もAIが作ってくれるかもしれません。

資料の内容はごくごく浅いものであり、詳しい方から見れば「政策は○△×の3つに分類できるものではない」「そもそもAIは信じられない」などツッコミどころはあろうかと思います。

でも、まずは知的障害がある息子がぎりぎりストレスなく理解できること、準備する側の負担が少ないことを優先することにしました。支援はハードルが低くないと続けるのが難しくなります。スモールステップで進むことを自分たちに許していきたいと思います。これは完成形でなく、工夫のひとつの形ですので、今後ももっと良いやり方があればトライしていくつもりです。

 

 

執筆者プロフィール

細川 有美子(ほそかわ ゆみこ)

1968年生まれ、福島県在住。
バックパッカーとして海外旅行中に出会ったエジプト人と2000年に結婚。現地で子供2人を出産する。2003年子供と帰国したのち、息子の発達障害が判明。夫とは2005年に離婚。
これまでに自閉症(中等度発達遅滞)・ADHD・精神障害・難病(クローン病)の診断を受けた息子の子育てと現在を、Instagramで発信。
2014年より取材・執筆活動を開始し、現在は事業所でのパート勤務、再婚の夫とふたりで米づくりにも奮闘している。
◇たきちゃん農場 https://www.takirice.com/
◇Instagram https://www.instagram.com/yumiko_days

この執筆者の記事一覧

関連記事

おすすめの記事