就労しながら一人暮らしをしているという知的障害者もたくさんいます。現在は経済的にも成り立っているけれど、親としては、何かトラブルがあったらどうなるんだろう、という心配が無くなることはありません。
障害者本人は30代後半の男性。軽度の知的障害で、一般就労をしており、現在の勤務を始めて5年になります。生活は賃貸アパートで一人暮らしです。福祉サービスなどは特に利用していません。
両親は60代で同じ市に住んでおり、他に子どもはいません。本人は職場にも慣れ、生活も安定していて、いまのところは大きな不安はもたずにすんでいます。
ただし、休日は実家にひんぱんに遊びに来たり、生活費が足りないとか、部屋がちらかって物が見つからないなど、日常生活で困ったことがあるたびに連絡が来たりで、完全に自立している状態とは言えません。親としては子どもとしょっちゅう会えるのはうれしいのですが、自分たちがいなくなったときのことを準備しておかなければ、と考えて相談にいらっしゃいました。
このケースでは、本人を支える仕組みとして、社会福祉協議会が実施している日常生活自立支援事業をオススメしました。社協から派遣される生活支援員の方と、郵便物の確認を一緒にしたり、公共料金の支払いなどを援助したりしてもらえるので、地域で生活するにあたって心強いですし。通帳やカードも社協の貸金庫に預かってもらうことで、紛失などのリスクも防げると思います。
ここで一つ心配だったのは、財産の管理を社協がするということを、それまでは自分の思い通りにお金を使えていたのにできなくなると本人が誤解して、生活支援員とのかかわりに拒否反応を起こされることでした。
そこで、両親が働きかけて設定した社協の専門員との面談で、本人の希望するお金の使いみちを確認し、希望はあくまで優先しながら必要な支援をしてもらえる、ということを説明しました。そして、両親も同席のうえ、親もいつまでも元気でいられるわけではないので、親以外に支援してくれる人をふやそう、ということを本人にも納得してもらうことができました。
なお、この事例では本人に契約締結能力がありましたが、本人が高齢になり判断能力が劣えてきた場合は、日常生活自立支援事業の利用が難しくなりますので、成年後見制度を検討する、居宅サービスや移動支援などを少しずつ利用する、近くの民生委員と連絡を取っておく、などして外部との接点をできるだけふやしておくことが必要だと思います。
就労している方は福祉サービスを利用していないケースが良くありますが、地域の支援者とのつながりが薄くなりがちです。併せて余暇活動などのインフォーマルなサービスも検討しましょう。
渡部 伸