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時給100円です―就労継続支援B型事業所のお金の話

発達障害と精神障害のある22歳の息子は、精神障害者を受け入れている就労継続支援B型事業所に在籍しています。

⁡就労継続支援事業所にはA型とB型があり、両者の違いを超ざっくりいえば「⁡利用者と事業所が雇用契約を結ぶかどうか」。A型は雇用契約を結ぶため、最低賃金以上の「給料」が保障されているのに対し、B型は「工賃」という形で各事業所の定めた報酬を受け取ります。

今回は就学中のお子さんがいらっしゃるご家族が気になるであろう、B型事業所の工賃や通所中の出費について、わが家の経験からお伝えします。

B型事業所を選んだ理由(高時給の夢は捨てた)

息子が特別支援学校の高等部に入学し、卒業後の行き先を考えていたとき、将来の自立のためにも、私は「少しでもお給料の良いところへ行ってほしい」と思っていました。就労継続支援事業所がどういう所なのかも、息子がどれだけ働けるのかの現実も、まだよく分かっていなかった頃です。最低賃金がいただけるA型事業所を希望していたし、福祉施設なのだから今能力がなくても働けるように支援してくれるのだろうという、甘い考えでもいました。

調べるとA型事業所は地元には数えるほどしかなく、通勤の便や作業内容を見てもピンとくる所がありません。またA型事業所は「毎朝自力で8時出勤が可能なこと」「一日6時間の労働が無理なく継続できること」のように高い基準を利用者に求めていました(就職説明会で聞いた内容です。事業所によってはもっと緩いかもしれません)。

当時、心身の状態がどんどん悪化していた息子には到底クリアできないものだったので、作業時間に融通の利くB型希望に切り替えたのでした。

B型事業所の工賃の現実

B型事業所の全国平均工賃は、令和5年度の実績で月額約23,000円です(厚生労働省資料より)。現在は各都道府県が障害者の工賃を事業者別に一覧で公開しており、誰でもネットで調べることができます。表記の仕方がさまざまなので月額しか表示していないところもありますが、事業所選びの参考にはなるかと思います。「障害者 工賃一覧 ○○県」等で検索すると見つけられます。

私が息子の就労で悩んでいると聞いた知人が「××B型事業所のお給料が8,000円だそうよ。行ってみたら?」と教えてくださったのですが、その方も福祉事業所のことをよくご存じでなかったらしく、「日額工賃」と思っていらしたようでした。あとで「月額工賃」と分かり言葉をなくしておられました。

普段触れる機会がなければ分からなくて当然ですし、「まさかそんなに低いわけがない」と思ってしまいますよね。私も「B型の工賃」「息子の能力」の双方がいかに低いかの現実を、調べたり見聞きするなかで認識し、時間をかけて受け入れていきました。

時給100円、作業4時間

事業所名を伏せて、息子が通うB型事業所の工賃を公開します。

息子は主に「自主製品の作製」として新聞紙でエコバッグ作りをしていますが、これは時給100円です。ほかの作業の時給は、内職(袋詰めなど)が150円、パソコン作業(データ入力など)が200円、お弁当づくりと販売が300円、アパート清掃や果樹園の手伝いなどは500円です。

作業の時給のほかに、月ごとに基本工賃や皆勤賞、がんばりに応じたポイントでボーナスがつくこともあります。作業時間は午前2時間半、午後1時間半で、一日に合計4時間です。息子が一日働いたとすると工賃は400円。仮に公共のバスで自宅から事業所へ通うと、交通費は往復880円です。実際は家族が送迎していますが、バス通所なら通えば通うほど負担が大きくなってしまいます。

B型事業所利用中にかかる費用

事業所では作業に応じた工賃をいただけますが、逆に費用の支払いもあります。私の場合、会費(事業所の法人会員のため)、傷害保険の掛け金、医師が記載する「利用意見書」を事業所に提出するため病院へ支払う書類作成料、これらが年一回発生します。

息子の事業所では希望者に昼食を提供しています。一食300円なので、もし息子が利用すれば、400円稼いだ日の実入りは100円になります(わが家は弁当持参です)。

通所のための送迎を有料で提供している事業所もあるでしょう。外出やイベントなど特別な活動をした際の費用もかかります。宿泊を伴う活動を行う事業所だと、毎月積み立て金を支払う場合も考えられます。作業に制服の着用が義務づけられている場合、一式を購入しなければならず、初期費用がかかります。

ちなみにB型事業所への通所は「障害福祉サービス」を利用していることになるので、原則、費用の1割が自己負担 (サービス利用料)になります。息子の場合は収入が障害基礎年金と工賃しかないので、負担上限額0円と認定され、支払いはありません。※

※B型事業所の利用料は基本的に1割負担ですが、世帯所得によってその上限額が異なります。障害のある本人が18歳以上の場合、世帯所得に含まれるのは本人と配偶者(夫・妻)の所得であるため、すでに成人している息子は負担上限額0円と認定されています。

B型事業所の工賃で測れない価値

今現在の息子は、週一回通所しながら少しずつ調子を整えているところです。通所しても作業できず「日中活動の場」として利用する日もあります。当然、手にする金額はわずかですが、それだけの仕事しかできないのが息子の現実。時給が高い作業への移行も、彼には大きなストレスになるため難しい状況です。

「お給料の良いところへ行ってほしい」と思っていた私も、息子の状態の悪化もあり今ではだいぶ考えが変わりました。通所のペースや作業量を自分のできる範囲に調整できる環境や、能力が一定のレベルに達していなくても「働いてお金を得る」という経験ができることに、B型事業所の価値を感じています。

「仕事をしている」「社会参加できている」「居場所がある」─ このことが息子を大いに支えています。社会に出るための訓練を受けながら、お小遣いまでいただいている。そんな感覚でありがたく利用させていただいています。

でもいつか「通うのがやっと」の状況から回復したときや、ひとりで生きていかなければならなくなったとき、また毎日の通所をこなせる方々にとっては「平均月収23,000円」の意味は変わってくるのでしょう。

出力レベルで評価する社会?

B型事業所に支えられていることには感謝していますが、社会全体の仕組みとして見たとき、やはり問いかけたいことがあります。

障害者が受け取る賃金が「公平」かというと私は疑問に感じています。成果が出たか、何時間働いたかで報酬が決まる社会では、弱者である息子は圧倒的に不利です。彼が精一杯の働きをしても、健常の方が涼しい顔でこなす仕事量の数パーセントにしか及びません。

これを読んでいるあなたが20kgの重りを持たされ、健脚のランナーと同時に走らされたとします。早くゴールした人がたくさんごほうびをもらえたら、不服ですよね? そもそもスペックは人それぞれなのだから、10の力が最大の人も、1の力が最大の人も、その人の100%を出せたなら同じ最高評価ってことでどうでしょうか(^_-)

私が妄想するのは「出力レベル」または「すなおさ」や「まじめさ」が評価基準の世界。これなら息子もまあまあの成績なんだけどな……なーんて…(ღ*ˇᴗˇ*)。o♡

現実の経済活動が厳しいことは承知しています。でも「自立」や「一人前」を目指す息子の(不毛ともとれる)戦いを見るうちに、そもそも土俵が違うのではと思わざるを得ません。

能力や作業時間にあまり左右されず、その人の得意な表現をしながら、もう少し豊かに生きられるような世の中の仕組みが作られたりしないかな……。そんな願いを温めている、ひとりの母なのでした。

執筆者プロフィール

細川 有美子(ほそかわ ゆみこ)

1968年生まれ、福島県在住。
バックパッカーとして海外旅行中に出会ったエジプト人と2000年に結婚。現地で子供2人を出産する。2003年子供と帰国したのち、息子の発達障害が判明。夫とは2005年に離婚。
これまでに自閉症(中等度発達遅滞)・ADHD・精神障害・難病(クローン病)の診断を受けた息子の子育てと現在を、Instagramで発信。
2014年より取材・執筆活動を開始し、現在は事業所でのパート勤務、再婚の夫とふたりで米づくりにも奮闘している。
◇たきちゃん農場 https://www.takirice.com/
◇Instagram https://www.instagram.com/yumiko_days

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