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自己肯定感の低い特別支援学校高等部の息子【お悩み相談】

16歳の息子は、褒められても反対にしか受け取らず、自分に自信がありません。普通の小学校から支援学校の中学部に進み、今は高等部の1年です。中学から円形脱毛症になり、鬱に近い感じに周囲からは見えています。

人とは全く話せません。(デイや学校の担任とマンツーマンになったときにだけ話をしますが、他の人がいると全くです。)自己肯定感が低いため、なんとか高めてあげたいのですが、なかなか上手くいきません。

好きなことで自分を表現できればと、絵画教室、陶芸教室といった習いごとに通わせています。家では樹脂粘土やプラバン作品を作っていますが、学校に行く日だけめまいが出るなど身体症状も出ており、なにをどうしていったらよいか思案中です。

僕はひとりぼっち、みんなに嫌われていると言う息子に、何かアドバイスいただけたらと思います。(虹色のうさぎさん)

※「北川先生のお悩み相談室」は受付を一時停止中です。

親として、非常に辛い心境だとお察しします。ご自身のお子様が、「ひとりぼっち」「みんなに嫌われている」とおっしゃり、円形脱毛症やめまいという身体症状まで現れていると、見ているだけでも苦しくなってしまわれるのではないでしょうか。

このような辛い状況の場合、親は「なんとかしたい」「気持ちや考え方を変えたい」と思ってしまいがちです。そしてそれは、親としては当たり前のことです。しかし、ここで第1回第2回のコラムを思い出していただきたいのです。重要なのは、<子どもの心の傷つき>があるということ。そして、それをどう癒していくのか?ということを、今回のコラムではお話ししていきたいと思います。

心をいったんギプスで固める

まず、皆さんが、何かの事故で足の骨を折ってしまったとしましょう。まずどうするでしょうか?おそらく病院で手術をし、足の骨を固定し、ギプスで固めます。そして、骨がくっついて元通りになってから、今度は衰えた筋力をリハビリしていくでしょう。骨が折れているのに、いきなりリハビリに入る人はいません。

それと同様に、心の傷を抱えている状態の発達障害の子どもに、いきなり「気持ちや考え方を切り替えて」というのは、非常に難しいのです。まずは今の心の状態を受けとめ、そう思うに至った経緯を深堀しながら話を聞き、今の感情を共有することがとても大切になります。これは<心をいったんギプスで固める作業>と言ってもよいでしょう。この段階で変化をあまり求めると、心に負担がかかりすぎてしまいます。

否定ではなく肯定、説得より理解

とはいえ、心の状態は外から見えにくいし、傷ついた心の治療についての知識を持っている人も多くはないため、なかなかこの<段階を踏んだ心の状態の回復>は簡単にはできません。

というのも、お子様についてのお悩みというのは、<自己肯定感が低い>ことだというのを、よくよく考えなければいけません。自己<肯定>感が低い人に対して、避けなければいけないことは、その人を<否定>をすることです。

本人は、円形脱毛症を発症するくらいに、「自分はひとりぼっちだ」「みんなに嫌われている」と本気で悩んでいるのでしょう。その人にとって、「ひとりぼっちじゃないよ!」「嫌われてなんかいないよ!」ということは、<肯定>でしょうか?<否定>でしょうか?そう、これは<本人の悩みに対する否定>になってしまうのです。

本人を励まそうと思ってしたことが、本人の真剣な悩みを否定することになる、これは意外なことかもしれませんが、理屈で考えるとそうなるのです。そして、特にASD傾向のある子どもには、これがよく起こるのです。

一般によくあるのは、「自分はひとりぼっちだ!」とは言うものの、心の中では「そうではない、本当はみんなに好かれている」と思いたくて、周りの励ましや慰めを待っているパターンです。いわゆる<注意引き>ですね。

しかし、ASD傾向がある子どもの場合は、本当に「ひとりぼっちだ」と真剣に思っているということがよくあり、その場合には、「そうではないよ」というのは、慰めではなく、その人への否定になり、より心を傷つけてしまう可能性があるのです。

このような状態の時にまずかけるべきは、「そうか、あなたはひとりぼっちだと思っているんだね」と相手の考えを受け止める言葉です。そして「それはすごく辛かっただろうね。今まで耐え続けてきたのは苦しかったね。」と本人の苦しさ、辛さに寄り添い、さらに、「どういうことがあってそう思ったのかな?気持ちをちゃんと理解したいから、もし大丈夫なら話してほしい。」などと、孤独感を持つに至った経緯を聞き取り、原因を把握することが大切になります。心をギプスで固めるには、説得よりも理解を重視することです。

趣味の場で重視したいのは他者と関われたという成功体験

趣味があることはこのような状況でとても良いことです。絵画や陶芸で自分の気持ちを表出することは、ストレスに対処していく上で、非常に効果的だと言えるでしょう。

ただ、ここで重要なのは、本人の対処したい気持ちが<孤独感>や<寂しさ>だということです。ただ一人黙々と作品を作り上げるだけで満足できるものでもありません。

大切なのは、作品を作り上げる過程をちゃんと見ている人がいるということです。完成品だけを見て褒めるのではなく、一緒に作ったり楽しんだりすることで、自分の好きなことを通して、他者と関われたというような成功体験が必要になるでしょう。そうでないと、せっかくの趣味があっても<孤独感>や<寂しさ>は解消されないままになってしまいます。

このアドバイスが、お子様にぴったり当てはまるかどうかは、正直わかりません。ただ、意識していただきたいのは、<段階を踏んで心の状態を回復させていくこと>と、<こちら側の『こうなって欲しい』を押し付けず、まずは本人の気持ちをそのまま受け止める>ということです。ここがうまくいかなかった場合、心にダメージがたまり、その結果として学校に行こうとするとめまいが起こる、という状態になっている可能性があります。

根本的な心の状態の回復、これを考えて、お子様に接していきましょう。

執筆者プロフィール

北川庄治

東京大学文学部卒、東京大学大学院教育学研究科(教育学修士)
デコボコベース株式会社 最高品質責任者CQO
一般社団法人ファボラボ 代表理事
公認心理師 /NESTA認定キッズコーディネーショントレーナー
高等学校教諭専修免許 /中学校教諭専修免許所持
神戸大などとの共同研究にも携わる。

◇デコボコベース株式会社
https://decoboco-base.com/
◇デコボコTV(YouTubeチャンネル)
https://www.youtube.com/@decobocoTV

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