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「常識」がジャマをする?発達障害の子どもとの「わかりあい」<後編>

2023.05.17

まずは家庭で「わかりあう」ために

<前編>では、発達障害、特に自閉スペクトラム症(ASD)の特性を持つ子どもが「周りから誤解され、嫌われてしまう」要因に、言動と気持ちの順番のアンバランスさがあるという内容を述べました。

では、このような発達障害の子どもたちが無駄に傷つかず、心が守られながら、健やかに生き、大人になっていくためには、どのようにしたらよいのでしょう?

まずは、その子を取り巻く人達が、これまでお話してきたような「常識」にとらわれないようにすることです。その子がぱっと発した言葉だけで、「そんな言い方では心配しているとは思えない」と決めつけるのをやめなければいけません。

多くの人にとってそのような考え方は、「本能」に基づいて自然にされてしまうことなので、これを止めるのは意外に難しいことです。まずは「これは本能でそう思っているだけで、相手のことを正しく理解しているのではない」という「知識」を持つことが重要ですし、それでも本能的に相手に対して起こる嫌悪感のようなものに流されない「自制心」も必要です。さらにこの嫌悪感が発生した瞬間に、それをきっかけにして「自分の常識による思い込みが始まったぞ」と考えられるようになる「習慣化」も必要です。

その上で、「すごく心配はしているんだよね。お母さんは君が優しいことを知っているよ。」と「わかっている」ことをまず伝えましょう。そうすることで、子どもは「わかってもらえている安心感」の中で、お互いに「わかりあう」ための話し合いをする心の準備が初めてできるのです。

 

前編で述べた病気のペットを心配する言葉より先に「嫌なにおい」という言葉を発してしまった子に対しては、

「病気のポチが心配なんだよね」

「でもね、心配しているのに、真っ先に『嫌なにおい』なんて言ったら、周りの人は、〇〇はもしかしたらポチのことを嫌いなのかな?意地悪な子なのかなって思ってしまうかもしれないよ。」

「だから、ポチのことを心配な気持ちをちゃんと言葉にするようにしようね。」

「自分に起こったことを言葉にしてもいいけど、ポチが大変な時には、心配な気持ちもちゃんと口に出していえればいいし、できれば自分に起こったことは心の中で言えた方がいいね。」

と「多数派の人にも通じるお作法を教える」ということができるようになります。

 

なかなかこのような大変な作業を、家族以外の、学校の先生や、ましてや小学生の周りの友だちにお願いする、というのはハードルが高いでしょう。だからこそ、せめて家庭では、このような、出てくる言葉では分からない「その子の本当の心の中」を常識にとらわれずに想像し、認め、受け入れるということをしないと、その子の心の休まる時がなくなってしまいます。

あくまで私の経験上ですが、わざわざ自分の子どもの心を傷つけようと思っている親なんて、見たことがありません。お互いの特性の「違い」と、自分の持っている「常識」に振り回され、本能的な嫌悪感に振り回され、お互いに困りあっていることがほとんどです。

「常識」に振り回される「困りあい」を、「わかりあい」に

発達障害の子どもたちは、多くの人とは言動の順番が違うだけで、同じ気持ちを持っているのだ、と「知る」ことがまずは第一歩です。

それが「信じる」につながり、「わかりあう」ことが少しずつできてくるのです。

簡単なことではないですが、これからも保護者様が少しでも楽になり、発達障害の子どもたちが少しでも幸せに生きていける、そんなお役立ち情報を提供していければと思いますので、共に学んでいきましょう。

(ぜんち共済より)子育て、特に発達に特性のある子の子育てには様々な悩みや問題がつきもの。日常の些細なことはもちろん、親御さんだけでは抱えきれないような心配事もあるかもしれません。そんなあれこれを匿名で、こちらのコラムの筆者である北川庄司先生に相談してみませんか?(採用されたお悩み、また北川先生からの回答は、ぜんち共済コラムに掲載させていただきますことあらかじめご了承ください。)

※上記の「北川先生のお悩み相談室」は受付を一時停止中です。

 

執筆者プロフィール

北川庄治

東京大学文学部卒、東京大学大学院教育学研究科(教育学修士)
デコボコベース株式会社 最高品質責任者CQO
一般社団法人ファボラボ 代表理事
公認心理師 /NESTA認定キッズコーディネーショントレーナー
高等学校教諭専修免許 /中学校教諭専修免許所持
神戸大などとの共同研究にも携わる。

◇デコボコベース株式会社
https://decoboco-base.com/
◇デコボコTV(YouTubeチャンネル)
https://www.youtube.com/@decobocoTV

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