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特別支援学校卒業後の生涯学習の必要性

■生涯学習の場としての青年学級とは

国内における最初の知的障がい者の生涯学習の場は、1953年に東京都墨田区で開かれた「すみだ教室」であったと言われています。その後、これまで数多くの地域等で設置・実施され、青年学級は当初自然発生的なものですが、やがて社会教育施策として育成されるという方向を辿っていきます。

東京大学名誉教授の佐藤一子さんは、学習者の自発性や自主的な選択において生涯学習の可能性に注目することは重要であるとおっしゃっています。

■中央区「かえで学級」の活動

私が長年指導を行っている知的障がい者の生涯学習の場である中央区「かえで学級」の活動をご紹介したいと思います。

中央区「かえで学級」は、東京都の中でも特に公的保障の拡充が積極的に行われております。年間約20回ほど学習の場が設けられ、主に、銀座中学校を拠点として様々な活動を行っております。

例えば、調理実習、お金の勉強、スポーツ、華道、手芸、宿泊合宿、ハイキングや年末になれば年賀状の作成など季節に関連した行事も積極的に行っております。

華道の様子
手芸の様子
スポーツの様子
調理実習の様子

 

また、中央区「かえで学級」を含む東京23区の青年学級では、在籍期間には制限を設けていない所が多いことも特徴です。基本的にどこの青年学級も、医療的ケアや介護を必要としない等の理由や区外への転出転勤等の物理的な理由が無い限り、学級生の意思を十分に尊重し在籍し続けることが出来ます。

更に入会する際も一定の基準を満たしていれば、入会を拒否することは基本的にありません。

ただ、高齢化が進み、中央区「かえで学級」の新規入会者数はそれほど多くありませんが、今後、何らかの規定を設けなければ、必然と学級生は増え続け指導する講師・助手の負担は増大していきます。

このことは、公平・平等なサービスが十分に提供されないという懸念にも繋がり、同時に高齢化による活動の制限により様々なサービスの低下を招き、また、障がいの程度や体力の差による重大な事故や過失等を起こす可能性も否定できません。

公的機関として、そのような安心・安全を担保する意味からも、指導員の継続的な確保と学級生の最適人数の明確化は検討すべきであると考えます。

■東京以外の青年学級(大都市圏)

調査というほどではありませんが、私が直接お伺いした名古屋市では、市としてそのような活動の重要性は認識しているものの、必要な予算として配分したり、また継続的に直接支援することはないです。あくまでも、民間ボランティアの活動として把握しているに留まり、必要に応じて相談に乗る程度でした。

更に大阪市では、担当部署がどこに当たるのかさえ分からず、やっとそれらしき部署に辿り着きましたが、結局、何一つ実態は分かりませんでした。

■何故必要なのか?

そもそも、「かえで学級」のような生涯学習の場は、何故必要なのでしょうか?それは、良く言われている様に、特別支援学校を卒業しますと、いきなり社会に放り出されてしまうからです。まだまだ勉強したい学生も多いでしょう。

文部科学省の調査によると、特別支援学校を卒業後、そのほとんどが就職や作業所通所の道を選び(選ばされ)、大学などへの進学率はたったの0.5パーセントほどと報告しています。このように、特別支援学校卒業後の知的障がい者には「学ぶ」という選択肢はないに等しいのがわかります。

■まとめ

今後、社会の必要なインフラとして、特別支援学校を卒業した後の、知的障がい者の生涯学習の場の提供は必須になってきます。

また、生涯学習の公的保障を拡大するために、地域の社会教育関係施設や大学及び学校の生涯学習事業への拡充・整備の方策等に目をむけ、その課題を明らかにすることは、個々の学習者の自発性や選択をより確かなものにするために必要であると考えます。

できることなら、公的機関による継続的な支援の下、質の良いサービス(指導)が提供されることが望まれますが、名古屋市や大阪市などの大都市圏でさえ、充分な体制が整っていないのが現実です。

大学進学も含め、生涯学習の場として、知的障がい者が色々と選択できる世の中になることを切に望みます。

執筆者プロフィール

斎藤利之(さいとう としゆき)

1974年生、静岡県浜松市出身
一般社団法人全日本知的障がい者スポーツ協会 会長/公益社団法人日本発達障害連盟 理事/保護司
専門領域:学校保健・国際保健・障がい者スポーツ・高齢者スポーツ
本業の傍ら、都内のいくつかの大学で教鞭を執る。また、地域社会へも積極的に関与し、東久留米市子ども子育て会議会長等多くの公的な委員活動を始め、内閣府の事業も多数手掛ける。一方、障がい者スポーツ分野では、2019年ブリスベンで行われた知的障がい者の国際総合大会(Virtusグローバルゲームズ)において、日本選手団団長を務め、過去最高の金メダルの獲得に貢献。更に、Virtus Asia sports Directorとして、アジア全体の知的障がい者スポーツの発展に尽力している。

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