重度の障害があっても働ける 工賃時給950円以上実現のための取り組みとは

自身もディスレクシア(読み書き障害)という発達障害の当事者でありながら、重度の障害者にも時給950円の仕事を生み出すことをモットーに、福祉事業所へのコンサルティングや商品企画、委託販売先への営業など精力的に活動する砂長美んさん。ご自身の経験や、障害者の仕事に対する考えついて伺いました。

 

12回転職・解雇 ディスレクシア(読み書き障害)当事者として悩んだ日々

▲現在は全国で講演活動も多数行っている美んさん


私には発達障害のひとつ、読み書き障害があります。子どもの頃は気づいていませんでしたが、イギリスの大学在学中に、教授から指摘されてわかりました。卒業後は日本に帰ってきて一般企業に就職しましたが、うまくいかずに12回転職しました。

 

―どのようなことがうまくいかなかったのですか。

 

電話番号を写し間違えてしまったり、メールアドレスを間違っているのに気づかなかったりといったミスがよくありました。文章を読み取る、解読するスピードも遅くなってしまいます。読み書き障害は見た目にはわからないので、そういう自分について説明することもできませんでした。いろいろ悩んでいるときに、読み書き障害に関するNPOと出合い、状況がかわっていきました。

ビジネスコンテストと→を転機に起業 国会議事堂に障害者施設製品の売り場を展開

今は一般社団法人ありがとうショップという、障害者施設で作られる製品を販売するお店を法人化して経営しています。製品の企画やコンサルティングも行っています。転職活動がうまくいかなかったときに、障害者の起業のためのコンテストに出場し、準優勝したのですが、その賞金で起業しました。始めはお弁当屋さんをやっていて、店頭で知り合いの福祉事業所で作っている製品を販売したのがこの仕事を始めるきっかけになりました。

 

―国会議事堂にも販売スペースがあると伺いました。

 

とてもラッキーな流れで、SNSを通じたやりとりから、障害者の賃金を上げるための会議に参加させてもらうことになり、それがきっかけで国会での販売につながりました。そこへ障害者施設で作ったクッキーを持って行ったのですが、始めは全然売れませんでした。「障害者ががんばって作ったクッキー」が売りではだめだと思いました。そこで、どのようなものが売れるのか、各地のお土産屋さんを見て回りました。自分がお土産を買う時、そこに行ったとわかるような、地名や絵柄が入ったものを選んでいると気づいて、国会議事堂の絵を入れるようにしました。令和元年には「令和」と印字したものも飛ぶように売れましたね。
できることをどう活かすかで考える コロナ禍に取り組んだマスク作り

―コロナ禍では布マスクの製造にいち早く取り組んでおられましたね。

 

人が必要としているものを作れば、作っている人が障害者であろうが健常者であろうが売れるんです。「障害者が作った」をアピールするより、人が必要としているものを作るようにしただけなんです。ただ、製造の工程については障害のある人のことを考えて流れを作っています。例えば今回のマスクだと、障害によって、生地を切るのが難しい人、ミシンで縫うのが難しい人など、できないことがある人もいます。そこで、「生地を切るだけの人」「ミシンで縫うだけの人」「ゴムを通すだけの人」「表示シールを貼るだけの人」というふうに、仕事を分けました。

 

障害の有無に関わらず、人にはできることとできないことがある。できないことがあっても、できることは必ずある。それをどう活かすかを考えています。マスクについても、自分のお金儲けだけを考えるのだったら、外国から輸入したものを売ればよかった。そうではなく、手作りのものをやろうと思ったのは、そこに工程がたくさんあると思ったから。障害者の作業となる工程がどれだけあるかをいつも考えています。

 

―美んさんは、障害の重い人にも工賃時給950円以上の仕事を生み出すことをモットーとされているそうですね。

 

重度の障害がある人は働けないと思っている人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。人はみんな、できること、できないことがある。できることを生かせば→活かせば仕事につながります。ありがとうショップで扱っている商品に、金箔が浮かぶ紅茶があります。これは、重度の障害のある方が紙をびりびりと破っているのを見て、思いつきました。「国会紅茶」と名前をつけたものは、国会議事堂のお土産で人気のもののひとつです。ただ作ってもらうだけでなく、売り場まで確保して、障害のある人が対価を得られるように、これからもやっていきたいと思います。

 

美んさんのお話を伺って、「できること」という観点から視点を変えたり、工夫したりすることで、今まで仕事をすることが難しいとされていた人にも働く機会が広がっているのだと思いました。また、このようにご活躍の美んさん自身も、自分を活かせる場に出会うまでにご苦労されてきたことに考えさせられました。全ての人が自分らしさを生かして働くことがスタンダードになるような社会をみんなで作っていきたいですね。

 

 

 

砂長美ん(すなながびん)さんプロフィール

一般社団法人 ありがとうショップ 代表理事。茨城県出身、東京都在住。

ロンドン芸術大学在学中に、教授より障害(ディスレクシア(LD(学習障害)の一つで、知的に問題はないものの読み書きが困難な症状)を指摘される。帰国後、外資系企業等に就職するも12回の解雇・転職を経験。その後障害者のビジネスコンテストで準優勝したことをきっかけに起業。その経緯がドキュメンタリー映画「DX(ディスレクシア)な日々」(2012年)となる。現在は、一般社団法人ありがとうショップを経営。障害者就労施設の商品を全国の観光地や国会議員会館売店(衆議院・参議院、4店舗)にて、新しい付加価値をつけて販売するスタイルを確立している。ぜんち共済(株) 、VALT JAPAN(株) 、(株)リンクライン宣伝顧問。著者に、「障がい福祉の学ぶ働く暮らすを変えた5人のビジネス」「企業と障がい福祉5人のSDGs的働き方改革」がある。

 

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執筆者プロフィール

雨野千晴

1981年札幌生まれ。神奈川県厚木市在住。ADHD不注意優勢型当事者。

長男が2歳で自閉症スペクトラムの診断を受ける。小学校教員として10年勤続後、2017年に退職、フリーランスに。現在はコラム執筆、講師、イラスト制作など多動に活動中。2児の母。NPO法人ハイテンションスタッフ・あつぎごちゃまぜフェス実行委員長。
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