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発達障害の子ども達にとって必要な高等教育とは ~障害生徒のための通信制高校設立 日野公三先生~

世界的ベストセラー作家であり、重度の自閉症のある東田直樹氏との出会いから、障害のある子ども達のための広域通信制高校「明蓬館高校」を設立された日野公三先生。先生のこれまでの取り組みと、発達障害のある子どもたちにとって高等教育で大事なことを伺いました。

多くの発達障害のある生徒たちに接してきたからこそ言えること

雨野:不登校によって高等教育の学習機会を失っている子どもたちが学べる場を作りたいという思いから、2004年に広域通信制高校アットマーク国際高等学校を設立されたと伺いました。そこに重度の自閉症を持ち、執筆活動もされている東田直樹さんが入学されてきたそうですね。

日野先生:東田さんの入学については、初めは驚き、戸惑いもありましたが、彼との出会いがあり、もともと持っていた「発達障害のお子さんを中心とした、障害のある子どもたちのための広域通信制の高校を作りたい」という思いを実行に移すことに決めました。2009年に明蓬館高校、2013年にSNEC(スペシャルニーズ・エデュケーションセンター)を立ち上げました。

雨野:高校段階の発達障害当事者に長年接してきた先生から見て、発達障害のある子どもたちにとっての高等教育における課題とはどのようなものでしょう。

日野先生:発達障害を持つ生徒の思春期においては、二次障害、三次障害が結局のところ一番の課題だと思います。適切な対応・対処がされないために、本人が望まない、抑うつ障害・コミュニケーション障害・不安障害などの二次障害、三次障害を抱えてしまう子ども達と多く出会ってきました。高校段階ではその立て直しとリハビリテーションが本当に重要だと痛感させられています。

「何に困っているかわからない」
ヘルプサインとリクエストスキルの重要性

▲あつぎごちゃまぜフェス 日野先生オンラインお話会より

 

様々な生徒に共通している課題は、「ヘルプサイン」と「リクエストスキル」の習得です。あるとき、「何に困っているのかずっとわからなかった。ぼくは何に困ればいいのですか?」と真顔で質問してきた生徒がいたのには、愕然としました。「生まれてこの方ずっと困っているから、今更何に困っているかと聞かれてもわからない」と訴える生徒もいました。そもそも自分の困り感がわからず、だからヘルプサインが出せないという子どもたちがいる現状を目の当たりにしたのです。

 

人に頼み事ができないという子どもも多いです。「何か手伝おうか?」「困っていることはない?」と尋ねても、必ずと言っていいほど「大丈夫です」という答えが返ってくる。こういった療育的課題から逃げないでトレーニングしていくことが立て直しのために必要だと考えています。

生徒たちの卒業後の課題から学んだこと

職場での日常のやりとりのようなスキルについても、高等教育で取り組んでいく必要があると感じています。卒業後に「今どうしてる?」と声をかける中で、生活スキルでのつまずきや、対人関係でのトラブルを抱えている卒業生が多いことがわかりました。就労の場で、自分の理解者が得られず、「昼休みに一人で過ごしている」「お弁当を食べる相手がいない」「雑談の仕方を教えてくれませんか」という生徒もいました。そういったことについて、学校教育の中では全く手が届いていなかったと感じました。

雨野:そのような課題に対して、具体的にはどのようにアプローチされているのですか。

日野先生:私たちは子どもたちについて、実際に出てくる言葉や行動など、目に見える部分で判断しがちです。ですが、その前にその子がそうせざるを得ない何かがあるのです。そこを理解するためには、発達の課題がある生徒に合った学習環境、その子の気質への理解が必要です。それを教員だけに求めるのには無理があると今では考えています。目に見えない部分をカバーするために、教員とチームを組む心理相談員の常駐が必要と判断し、2012年から導入しています。

学校は、生徒たちにとって安心できる居場所としてだけでなく、その子の課題を科学的に分析し、アプローチしていく必要があります。困難への対処だけでなく、子どもたちの卒業後に必要となるスキルや、将来の夢、目標、自分を生かすためのツールを身に着けられるよう、教員が子どもたちの将来にとって必要な学びを「支援・伴走する」福祉の要素を取り入れた教育を目指しています。

ネガティブワードをポジティブワードに変換

雨野:発達障害を持つ子どもたちが就職後に直面する課題についても学んでいく必要があるのですね。保護者はどんなことに気を付ければよいでしょうか。

日野先生:いろいろありますが、中でも「言葉」は家庭でも取り組める重要な教育的要素です。どのような言葉を使うかは、子どもたちの成長に大きく関わってきます。例えば、「なぜ〇〇したの」という言葉に、責められたような気持ちになったという生徒の声を多く聞きます。「何があったの?」と言葉を変えることで、具体的な話を聴くことができますね。私たちが子どもたちとの実際のやりとりの中で10年越しにまとめたものがありますので、よかったら参考にしてみてください。

▲日野先生ご講演資料より

先生のお話を伺って、発達障害を持つ子どもたちが抱える二次障害・三次障害という課題の深刻さを改めて知ると共に、保護者としても子どもの特性を見極めながら、日常の対人関係の中でどのような部分に本人の困り感があるのかを子どもと共有していくことが必要なのだと感じました。また、教えていただいた「言葉」について、ついつい言ってしまっているネガティブワードが多いことにドキッとしました。子どもに対してだけでなく、日ごろからポジティブワードを心掛けていきたいです。

※本記事は日野先生にご了承を得て、あつぎごちゃまぜフェス主催「日野先生お話会」と、オンライン配信インタビューから構成したものです。

 

日野公三先生プロフィール

大学卒業後、リクルート、神奈川県の第3セクター取締役を経て起業。第3セクター時代、通信事業に携わる中、「不登校サロン」に関心を持つ。帰国後、1997年に日本初のインターネット高校、インターネットハイスクール風(KAZE)、2000年東京インターハイスクール、2004年アットマーク国際高等学校を設立。その後、東田直樹氏との出会いを機に、2009年明蓬館高等学校を設立。2013年からはSNECと呼ばれるサポートセンターを全国に展開している。NPO日本ホームスクール支援協会理事長。著書に『発達障害の子どもたちの進路と多様な可能性』(WAVE出版)がある。

明蓬館高等学校HP
https://www.at-mhk.com/

明蓬館高等学校SNEC HP
http://www.at-mhk.com/portals/0/lp/lp05_20181115/

スマホで見る明蓬館高等学校SNEC
https://www.at-mhk.com/portals/0/lp/snec/…

 

執筆者プロフィール

雨野 千晴

1981年札幌生まれ。神奈川県厚木市在住。ADHD不注意優勢型当事者。

長男が2歳で自閉症スペクトラムの診断を受ける。小学校教員として10年勤続後、2017年に退職、フリーランスに。現在はコラム執筆、講師、イラスト制作など多動に活動中。2児の母。NPO法人ハイテンションスタッフ・あつぎごちゃまぜフェス実行委員長。
https://linktr.ee/amenochiharu

 

執筆者プロフィール

雨野千晴

1981年札幌生まれ。神奈川県厚木市在住。ADHD不注意優勢型当事者。

長男が2歳で自閉症スペクトラムの診断を受ける。小学校教員として10年勤続後、2017年に退職、フリーランスに。現在はコラム執筆、講師、イラスト制作など多動に活動中。2児の母。NPO法人ハイテンションスタッフ・あつぎごちゃまぜフェス実行委員長。
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