激怒する親、鬱になる保育士

私は保育園、幼稚園の職員研修を依頼されることが多いのですが、園から「お子さんの行動が気になるので相談機関にいってほしい」と伝えると、次のように保護者から言われることがあると聞きます。

・「似たような子は沢山いるじゃないか。個性の一つだ。行政に訴えてやる」

・「子どもの問題行動は先生の指導力が問題!うちの子を障害児扱いして」

・「障害児加算を目当てにしているんですか」

・他の保護者に担任の悪口を言いふらされた

・保護者からの攻撃で、鬱病になった職員がかつていた

・「上の子も同じ感じだったが今はしっかりしている」「家では問題ない」「男の子だから」と言い訳されてしまい、それ以上話が進まない

・「でも、文字や数字も得意だし問題ない」と言われる。保護者と話がかみ合わず、「親自身も発達障害かも?」と感じる

こんな経験をしてしまうと「保護者との人間関係を悪くしたくない」「親御さんが傷つくので話しにくい」と思い、それ以降、口を閉ざしてしまう園の先生もいます。しかし裏を返せば、保育士や先生自身が「傷つきたくない」のではないのかもしれません。

保護者も園も「子どもの幸せ」という同じ方向を見ているのですから、「親からどう思われるだろう」と考えるのは、やめてほしいと思います。

「長い目で見ましょう」という問題を先送りにしてしまう曖昧な言い方は“放置”につながります。子どもは、親にも周りにも理解されないまま、苦しい人生のスタートを切ってしまうことになります。

小学校の選択も、知的発達の遅れがなければ通常学級に通うケースも多いです。この場合も、園からの指導要綱への記載や就学支援シートで申し送りをし、特性を伝えれば障害者差別解消法による合理的配慮を受けることができます。でも、それがなければ、子どもは担任から厳しい叱責を受けたり、同級生からいじめに遭ったりするでしょう。

■背景を知る

母親は子どもと接する時間が長いので、我が子の行動の異変にうすうす気づいている、というケースもあるかもしれません。でも理解のない夫や姑から「こんな幼いうちから、障害者のレッテルと貼るつもりか、そんなことしたら伸びるものも伸びなくなる」と詰め寄られ、夫婦間の諍いが絶えず苦悩しているかもしれません。

そんな家庭の背景を知り、「お母さんの応援団になる」という姿勢で助けてあげてほしいと思います。また、行動に移しやすいよう、専門機関の名前・電話番号・担当者名に加えて「〇月〇日までには行ってほしい」と具体的に伝え。出来れば同行してあげてほしいです。

Ⓒ今井久恵

■保護者の方へ 人生100年時代

子どもの将来に夢や希望を持っていたのに「専門機関を受診してください」と言われたら、奈落の底に突き落とされます。「はい、分かりました」とすんなり受け入れる親は、まずいません。

でも、親亡きあとの人生の方が長く続くのです。仮に30歳で出産したとすると、親が80歳のとき、子どもは50歳。発達障害に気付かないまま、不登校や引きこもりに発展し、親の年金で暮らしていた子どもが、親が亡くなった後に孤独死、というケースもあります。

福祉の網の目からこぼれ落ちないよう、療育手帳や精神障害者保健福祉手帳、受給者証を取ることで福祉とつながり、一人で抱え込まず、「SOS」を出して周りに助けてもらいましょう。

保育園や幼稚園側は「自分たちが一時的に恨まれても構わないから、担当している子どもの将来の幸せのために進言しよう」と、勇気を奮って伝えてくれているのです。子どもが幼いと、親はなかなかそこまで考えられないかもしれませんが、園側のメッセージに耳を傾けてほしいと思います。

執筆者プロフィール

立石美津子(たていし みつこ)

20年間学習塾を経営、現在は著者・講演家として活動。『一人でできる子が育つテキトーかあさんのすすめ』『はずれ先生にあたったとき読む本』『子どもも親も幸せになる発達障害の子の育て方』など著書多数。『発達障害に生まれて(ノンフィクション)』のモデル

立石美津子(たていし みつこ)
Scroll