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成年後見が「必要な間だけ使える制度」へ。26年ぶりの大改正で「親なきあと」の準備はこう変わる

2026.10.22 2026.10.22

一度始めたら、本人の判断能力が回復しない限り、原則として終わらせることが難しかった成年後見制度。2026年6月17日、その制度を見直す改正民法が成立し、同月24日に公布されました。改正法の施行後は、家庭裁判所が必要性を認めなくなった場合に、制度を終了できる仕組みになります。ただし、施行前の現時点で、すでに変わったわけではありません。

 これは、単に福祉の仕組みが変わるという話ではありません。家族と、お金と、本人の自由の話です。

 一度始めたら、終わらせることが難しかった成年後見制度

 成年後見は、認知症や知的障害などで、ひとりで契約や財産管理をすることが難しい人を、法律の面から支える仕組みです。

 使いにくさの核心は、ひとつ。一度始めると、本人の判断能力が回復するなどの事情がない限り、原則として終わらせることが難しい点です。

 たとえば、親の遺産の相続のために成年後見人をつけたとします。手続きが終わっても、後見は続き、日常のお金の管理まで第三者に任せ続けることになる場合があります。こうした点を不安に感じ、制度の利用をためらうご家族もいます。

 相談支援専門員として面談するなかで、何度も聞いてきた言葉があります。

「もう必要ないのに、どうしてやめられないんですか」

 僕はこれまで、「制度上、難しいんです」としか答えられませんでした。その答えを変えられる可能性が、ようやく見えてきました。 

約26万人が利用している

 成年後見制度の利用者は、2025年12月末時点で約26万人です。一方、65歳以上の認知症の人は2022年時点で推計443.2万人、軽度認知障害(MCI)の人は推計558.5万人です。両者を合わせると1,001.7万人となり、65歳以上の人の約3.6人に1人に相当します。※[1]※[2]

成年後見制度の利用者には高齢者以外も含まれ(後見を始める原因の61.3%は認知症、9.6%は知的障害。※[3])、認知症やMCIの人すべてに成年後見が必要なわけではないため、これらの数字をそのままあてはめて「本来対象者なのに制度を使っていない人の割合」とすることはできませんが、それでも、母数に対して利用者は少なさが印象的です。 

成年後見制度はなぜ使いにくいと感じられてきたのか

 制度の利用をためらう理由のひとつとして、費用への不安があります。

 後見人等の報酬額は法律で一律に決まっておらず、本人の財産や後見事務の内容などを踏まえて、家庭裁判所が個別に決めます。長野家庭裁判所の説明資料では、通常の事務を行った場合、月額1万〜2万円程度と決定されることが多く、管理財産額が5,000万円を超える場合は月額5万〜6万円程度とされることもある、と説明されています。これは同家裁資料に示された大まかな傾向で、全国一律の基準や個別事案の報酬額ではありません。※[4]

 仮に月額2万円の報酬が50年間続くとすると、単純計算で1,200万円です。実際の報酬は事案ごとに異なりますが、長期にわたる費用を心配する家族がいるのも無理はありません。

 もうひとつは、誰が成年後見人等に選ばれるのかという担い手の問題です。2025年に認容で終局した後見開始・保佐開始・補助開始事件では、成年後見人等に親族が選任されたものは全体の約16.4%でした。親族以外が約83.6%を占めています。※[3]

 家族のことが、家族の手を離れていく。家族の問題に、よく知らない第三者が介入してくる。そう感じることも、制度利用へのためらいにつながってきました。

 

今回の改正で、何が変わるのか

 改正の柱は4つです。

 3つの類型を「補助」に一元化

これまで:本人の判断能力に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型がありました。類型によって、代理権や取消権の範囲が異なっていました。

これから:後見・保佐を廃止し、補助の制度に一元化します。本人に必要な事項について、代理権や取消権を個別に定めます。

必要性がなくなれば、終了できる仕組みに

これまで:本人の判断能力が回復するなどの事情がない限り、制度を終わらせることは困難でした。

これから:家庭裁判所が制度の必要性がなくなったと認めた場合、終了できます。補助人には年1回の定期報告が求められます。

補助人を交代しやすく

本人との関係や支援の状況などに応じて、補助人を交代しやすくする仕組みが設けられます。

「特定補助」の仕組み

事理弁識能力を欠く常況にある人について、必要性がある場合に限り、法律で定める重要な財産行為を取り消せる権限を持つ特定補助人を付ける制度が設けられます。

 改正法は2026年6月17日に成立し、同月24日に公布されました。成年後見制度の見直しは、公布の日から2年6か月を超えない範囲で政令が定める日に施行されます。2026年10月19日現在、具体的な施行日は未定で、遅くとも2028年12月24日までに施行されます。※[5]

 なお、同じ法律には遺言制度の改正も含まれています。電磁的記録で作成した遺言を法務局で保管する「保管証書遺言」の創設などは、成年後見制度の見直しとは別に、公布の日から3年を超えない範囲で政令が定める日に施行されます。※[5]

 

それでも、変わらないもの

 制度が変わって全部スッキリ解決とはいきません。

 「終われる」は、自動ではない

終了を判断するのは、家庭裁判所です。成年後見関係事件の申立ては、2025年に合計43,159件ありました。※[3] 改正の趣旨に沿った審査や運用ができる体制を整えられるかが課題です。

いま使っている人の制度が、自動で切り替わるわけではない

現在、後見・保佐を利用している人について、施行後にどのような手続きが必要になるかは、個別の状況や改正法の経過措置を確認する必要があります。新制度への切替えや終了が自動で行われるわけではありません。具体的な手続きは、施行後に家庭裁判所や専門家へ確認してください。

担い手と報酬の課題は、法律だけでは解決しない

誰が支え、報酬を誰が負担するのか。法律の改正だけでは解決しません。日本弁護士連合会は2026年2月の会長声明で、要綱を評価する一方、制度の基盤整備や財源確保、意思決定支援に基づく日常的な金銭管理・生活支援を担う地域の仕組みが必要だと指摘しています。

 国連の勧告も、残る

国連の障害者権利委員会は2022年、日本の障害者権利条約の実施状況に関する総括所見で、意思決定を代行する制度を廃止する観点から民法を改正すること、障害のある人の自律・意思・選好を尊重する意思決定支援の仕組みを設けることを日本に勧告しました。

 今回の改正では、一定の場合に取消権を持つ特定補助の仕組みが設けられます。したがって、改正は国連の勧告が示す方向性とすべて一致したと断定できるものではなく、今後も検討すべき課題が残ります。

以上のように、 不確定要素が多いため、とりあえず法律の施行を待という方も多いとは思いますが、いま口座凍結や遺産分割で心配ごとが多くある方は、施行を待たず、現行制度のもとで相談・手続きを進めることも必要になります。引き続き情報収集をしていただきたいと思います。

 

「親なきあと」の設計図を描き直すために

 僕が現場で多く向き合ってきたのは、知的障害のあるお子さんの親御さんです。皆さんから同じ不安を、何度も聞いてきました。

 親が元気なうちは、支えられる。でも、親も歳をとる。認知症になることもある。

「私が死んだら、この子の後見は、誰が引き継ぐんですか」

 この質問に、僕はずっと、答えに詰まってきました。

知的障害のある人の場合、判断能力が回復したと認められることは難しい場合があります。現行制度では、一度後見を開始すると終了が難しく、長期間にわたることもあります。

20代で始めれば、50年。仮に月2万円の報酬が続くなら、単純計算で1,200万円です。

だから、必要になっても利用をためらう。そんなご家族の声を聞いてきました。

 厚生労働省の「令和4年生活のしづらさなどに関する調査」では、在宅の療育手帳所持者は推計114.0万人です。※[6]

 今回の改正で、設計図を描き直せる可能性が生まれます。親が亡くなったときの相続手続きや施設との契約を結び直すときなど、必要な場面で必要な権限を個別に定め、必要性がなくなったと家庭裁判所が認めれば終了する。そうした使い方が制度上可能になります。

ただし、必要な権限が認められるか、いつ終了できるかは個々の事情を踏まえた家庭裁判所の判断です。自動的に「相続のときだけ使って終われる」と決まるわけではありません。

 もうひとつ、改正法は本人の意思や必要性を踏まえ、必要な範囲で制度を利用する方向へと見直すものです。代わりに決めるのではなく、「本人が意思を示し、決めることを支える仕組」みを実際に整えることも欠かせません。

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施行までに、家族が始められる3つのこと

 成年後見制度の見直しは、公布から2年6か月を超えない範囲で政令が定める日に施行されます。具体的な施行日は、2026年10月19日現在、まだ定められていません。そこまでを「待ち時間」にするか、「準備期間」にするかはご家族にゆだねられます。私からは、次の3つの準備を提案します。

 書き出す

親なきあとに、この子に「発生する手続き」を、家族で紙に書き出す。相続の手続き。銀行口座。住まいの契約。福祉サービスの契約。年金の管理。不安ではなく、手続きを書く。ここがコツです。

仕分ける

「成年後見制度(改正後の補助)が必要になりそうな場面」と「別の方法で足りる場面」に分ける。日常のお金の管理なら、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業。元気なうちの備えなら任意後見、財産の承継なら家族信託や遺言。丸投げから、組み合わせて選ぶ時代へ。

 つながる

迷ったら、ひとりで悩まないでください。相談支援専門員、市区町村の障害福祉窓口、社会福祉協議会。現場に30年いて、はっきり言えることがあります。親なきあとに強いのは、お金を残した家族より、相談先とつながっている家族です。

 最後に

 今、後見を使っているご本人とご家族へ。

成年後見制度を「やめたい」「終わりたい」という願いが、改正法の施行後には、家庭裁判所に終了を求められる仕組みにつながります。ただし、施行後も自動で終了するわけではなく、家庭裁判所の判断が必要です。施行時期や手続きの情報を確認しながら準備しましょう。

 知的障害のあるお子さんを育てている親御さんへ。

「この子の後見は誰が」という問いに、制度上の選択肢が増える可能性があります。まず、手続きの書き出しから始めてみてください。

 そして、親の老いがちらつき始めた、すべての人へ。

65歳以上の人の約3.6人に1人が、認知症またはMCIと推計されています。これは障害福祉だけの話ではありません。あなたの家族の話でもあります。

 制度に振り回されるのではなく、自分たちの手で「これからの暮らし」を選び取る時代へ。まずは小さく一歩を踏み出すことから始めてみませんか。「その時」に迷わないよう、今できる準備から一緒に始めていきましょう。

【参考資料】

※[1] 総務省「成年後見制度の利用促進に関する調査 結果報告書」成年後見制度の利用者数(令和7年12月末時点)https://www.soumu.go.jp/main_content/001082908.pdf

 ※[2] 内閣府「令和6年版高齢社会白書」第1章・第2節・2「健康・福祉」(認知症・MCIの推計)https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/html/zenbun/s1_2_2.html

 ※[3] 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況―令和7年1月~12月―」https://www.courts.go.jp/assets/20260316koukengaikyou-r7.pdf

 ※[4] 長野家庭裁判所「成年後見人等の報酬額について」https://www.courts.go.jp/nagano/vc-files/nagano/file/20190401-12koukennnihousyuu.pdf

 ※[5] 法務省「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html

 ※[6] 厚生労働省「令和4年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/seikatsu_chousa_b_r04.html

 

執筆者プロフィール

川田祐一 (かわだ ゆういち)

株式会社障害者ドットコム代表取締役。主任相談支援専門員として自身も現場に立つ。自らも発達障害当事者であり、妻も障害当事者。「自己実現できる障害者を増やす」をミッションに、障害者向けWebメディア「障害者ドットコム」の運営、就労継続支援、計画相談支援、障害者雇用相談援助事業を行う。スタッフ17名中13名が障害当事者。

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