fbpx

息子が警察を恐れるわけ

子育て中の親御さんの中には、「それはしてはいけないこと」として親の言葉で叱らないで、「悪いことしたら、お巡りさんに捕まるよ」と叱る人がたまにいます。しかし!これは責任転嫁の叱り方といえます。「だったら、お巡りさんに捕まらなかったらやってもいいのかな?」と誤学習してしまう子がいるかもしれません。

(バスの中で騒いだ時、「運転手さんが睨んでるよ」「ほら、よその人に迷惑がかかるでしょ」「あのおじさんが睨んでるよ」も同様で「だったら運転手さんが怒っていなかったら騒いでいいのかな」「他に乗客がいなかったら騒いでいいのかな」と勘違いしてしまう子もいます。気を付けたいですね。)

 という私は、お巡りさんや警察を引き合いに出すような叱り方をしたつもりはないのですが、知的障害を伴う自閉症がある息子は、警察を「市民を守ってくれる存在」とは思っておらず、「僕を逮捕しにくる怖い存在」だと感じているようです。

 息子が警察を恐れるわけ

息子が警察を恐れる理由は2つあります。

1つ目は、息子は、以前パニックを起こしたときに近くに止まっていた車を蹴ってしまい「警察を呼ぶぞ!」と怒鳴られた経験から、「○○の犯人が警察に逮捕されました。」と流れると、犯人側の立場に立ってしまい「怖い!」となってしまうようです。

 2つ目は、知的障害を伴う自閉症がある成人の知人が、公園で足元に転がってきたボールを幼い子に渡してやった際、渡した後もその場を去らなかったので、子どもの親に「不審者がいる」と110番されてしまったことから。(警察は通報があったら駆けつける義務があります。知人に対して頻繁にこれがあるので「また君ね」という感じで連れていかれました。)

 ちなみに、別の子で、毛玉に強い執着があり、母親のセーターの毛玉を取るのが好きな子が、ある時電車で見知らぬ人の毛玉を触ろうし、これまた通報されそうになるという出来事も身近にありました。このように、障害のある人が通報されそうになるエピソードは枚挙にいとまがありません。

 実際には、警察は怖い存在ではなく、市民を守ってくれる味方です。弱い立場の障害者は特に騙されやすかったり、脅されやすかったりするのに、警察を怖いと思っていたらいざというときにSOSを出すことができません。

障害のある息子の「警察」への恐怖心は百害あって一利なし。警察はどういう仕事をしているのか根気よく教えていく必要があると感じています。

福祉とつながっておこう

いつだったか、発達障害がある人が逮捕されたとき、誘導尋問にかかりやすいと聞いたことがあります。でも

 刑事「君がやったんだね?」

本人「君がやったんだね」

 と、完璧なオウム返しをすれば、「あれ、おかしな日本語だな、もしかしてこの人には自閉症があるのかな」と知識がある刑事はわかるかもしれません。また、大人になってもこの状態だったら、おそらく療育手帳を幼児期から持っているでしょう。これで障害者であることが証明されるのです。

けれども、障害が軽度で手帳を持っていなかったり、刑事の言葉の後半部分、更に「ね」を省略して「やったんだ」とオウム返したり、刑事から「君がやったんだね」と詰め寄られ、条件反射で「やりました」と反応したりしたら?もしかして、誤認逮捕されてしまうかもしれません。

 日本の福祉は自己申告制です。手帳を取得し福祉を利用するには、親が我が子の障害に気付いて積極的に動く必要があります。もし、療育手帳が取れなくても受給者証を取るなどして何らかの形で福祉とつながっておくことが大切と感じます。

 まだお子さんが小さい方にはぴんとこないテーマかもしれませんが、頭の片隅に置いておいていただけたら幸いです。

 

執筆者プロフィール

立石美津子(たていし みつこ)

著述家
20年間学習塾を経営、現在は著者・講演家として活動。
自閉症スペクトラム支援士

『一人でできる子が育つテキトーかあさんのすすめ』
『はずれ先生にあたったとき読む本』
『子どもも親も幸せになる発達障害の子の育て方』
『動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな』
など著書多数

日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞作『発達障害に生まれて(ノンフィクション)』のモデル
Voicy  https://voicy.jp/channel/4272
オフィシャルサイトURL https://tateishi-mitsuko.com/
テキトー母さんのすすめ(アメブロ) https://ameblo.jp/tateishi-mitsuko/

この執筆者の記事一覧

関連記事

  • 真面目か!

    知的障害を伴う自閉症のある息子は特別支援学校高等部卒業後、就職する前、就労移行支援事業所に3年間通いました。その頃の話です。 ある日、その就労移行支援事業所とは別に通っていた通所施設の中に、帽子をかぶ …

  • 自閉症のある息子は「死」をどうとらえている?

    知的障害を伴う自閉症のある息子の関心事のひとつに「死」があります。小学生の頃から死に関するニュースにはすかさず反応し、芸能人など誰かが亡くなった知らせを耳にすると、キラッと目を光らせます。「ゆみさん、 …

  • 脳は否定形がわからない

    自閉症は想像力に障害があるそうで、「曖昧な言いかたではわからない、具体的に言わないと伝わらない」と言われています。少なくとも自閉症のある息子はそうだと思います。24歳の大人になってもそうです。 息子が …

  • 電車の緊急停止ボタン、非常ベルを押してしまう子

    自閉症と知的障害のある息子ですが、思い返せば幼い頃、ボタンと言うボタン、その中で非常ベルボタンを押そうとしていた時期がありました。 それから、火事でもないのに消火器の安全栓を引き抜こうとしていた時期も …

おすすめの記事