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算数障害当事者が絵本『すうじのないまち』を読んでみた

2025.12.03

発達障害の代表的なものに、 注意欠如・多動性障害(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、そして(LD・SLD/学習障害・限局性学習障害) があります。 書店や図書館に行くとADHDやASDの本は多く見かけますが、SLDの本は比較的少なめです。おそらく LD・SLDの認知度がADHDやASDに比べてまだ低いことが影響しているのではないかと考えています。

そんななか、9月に出版された『すうじのないまち』(文・濱野京子、絵・ユウコ アリサ/アノマーツ出版)はLD・SLDの中でも、特に算数障害に焦点を当てた わかりやすい絵本です。算数障害当事者である私は、SNSでこの本を知り興味を持ちました。実際読んでみて、多くの人に手に取ってほしい一冊だと感じたので、ここで感想をシェアしたいと思います。 

『すうじのないまち』濱野京子・文、ユウコアリサ・絵(アノマーツ出版)

算数障害とは

算数障害は、LD・SLD/学習障害・限局性学習障害のひとつです。LD・SLDとは、知的発達に遅れはないにもかかわらず、特定の学習分野に著しい困難が生じる状態 を指すといいます。

このうち 算数障害は、計算や数字の理解に特化した困難があらわれるタイプで、たとえば

  • 簡単な暗算ができない
  • 九九が覚えられない
  • 文章題の意味がつかめない
  • 数の大小関係の理解が難しい

など、「計算」や「数量の概念」にかかわる学習が特に苦手になる特徴があります。まさに私もそうで、学童期からずっと数字に関することには困難を抱えてきました。 

参考:発達障害を理解しよう 第1章 – 東京都福祉局(PDF)

「算数のある日は学校に行きたくない」

『すうじのないまち』の主人公・レイナも算数が苦手です。おばあちゃんが焼いたクッキーをわけるときに数がわからず、「算数のある日は学校に行きたくない」といったセリフが登場します。これは私が小学生の頃に実際に口にしていた言葉とまったく同じです。

私も小学生の頃、他の教科はテストで満点が取れるのに算数だけはいつも60点。どんなに注意しても計算ミスは減らず、繰り上がりや繰り下がりのある計算は筆算をしないとできません。%の計算は正直今でも難しいままです。

私が子どもだった1990年代はまだ発達障害の認知度が低く、特に学習障害は「努力不足」とされがちでした。そのため先生からは注意されることが多く、親にも「桂さんは算数のルールを守れていません」と面談で言われ、家庭では父親に怒鳴られることもありました。

両親の口癖は「やればできる」だったのですが、できない理由が障害である以上、やってもできません。これは足がない人に向かって「100mを10秒で走れ」と言っていることと同じです。どんなに努力をしたってできないのです。

そのため、算数の授業がある日は本当に学校へ行きたくなくて、なんとか休めないかと、寒い日にわざと薄着で縁側に座って風邪を引こうとしたことさえあります。

それほど、私は算数に対しての苦手意識が強かったのですが、これが障害だとわかったのは大人になって発達障害の検査を受けてからです。

数字が苦手なら記号に置き換えれば理解が進む場合も

レイナが紛れ込んだ街には数字がありません。時計がなく、テレビのリモコンには花の絵がほどこされています。時間割にも算数が見当たりません。小学生のときの私がこの街に紛れ込んだら、算数がないなんて天国!と思ったことでしょう。

もとの世界に戻ったレイナはおばあちゃんの作ったクッキーの形がハートや星といった形になっていることから、その形を手掛かりに、わけるときの数を理解できるようになります。

算数障害のある人は、数字そのものの概念をつかむことが難しい場合がありますが、数字の代わりに「記号・形・色・位置」など別の情報に置き換えると理解が進むことがあります。

算数障害のある子どもであっても「わかる喜び」を味わえるよう 、教育の場での工夫や配慮が進むことを願っています。

なぜ「わからない理由」を知ることが大切なのか

この絵本には、算数障害研究の第一人者である 熊谷恵子先生(筑波大学名誉教授) による解説が収録されています。熊谷先生は、

「数や計算がわからなくなったら、それを隠さずに先生に伝えましょう。どうして数や計算がわからないのかには理由があります。(中略)できるだけ早く理由を知り、対応していくことが必要です」

と述べています。

この言葉を読んで、私は深くうなずかずにはいられませんでした。私も子どものうちになぜ算数ができないのか理由がわかっていれば、適切な指導者に巡り会えていれば、違う学習の仕方があったのではないかと思うからです。きっと、別の学び方や自信につながる道があったのではないかと思うのです。

今は昔よりも、発達障害についての理解が確実に広がっています。だからこそ、『すうじのないまち』のような絵本がきっかけとなり、LD・SLDについても認知が高まることで、適切なフォローの仕方が広がっていけば、学習のつまずきによって生まれる苦手意識や不登校を防げる可能性は大いにあると感じます。

知ることが支えになる

だからこそ、この絵本がもっと多くの人に読まれてほしい と強く思います。算数障害や学習障害の存在を早い段階で知ることは、子ども本人にとっても、周りの大人にとっても大切な“支え”になります。 

個人的なことですが、私は最近子どもが生まれました。もう少し大きくなったら、『すうじのないまち』を読み聞かせながら、算数障害についても自然に伝えていくつもりです。

もし本人に、私のように発達障害があったとしても、「なぜ自分には苦手なことがあるのか」 を早く理解できれば、必要以上に自信を失わずに済むはずです。また、学校に通うようになったとき、周りに発達障害の友だちがいたとしても、理由を知っていれば偏見を持つこともなくなるのではないかと期待しています。 

【書籍情報】
『すうじのないまち』濱野京子・文、ユウコアリサ・絵
解説:熊谷恵子(筑波大学名誉教授)算数障害研究
アノマーツ出版 公式サイト⇒https://anomarts.com/

 

 

執筆者プロフィール

姫野桂

フリーライター。1987年生まれ。宮崎市出身。
日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをし、編集業務を学ぶ。卒業後は一般企業に就職。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブなどで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。猫が好き過ぎて愛玩動物飼養管理士2級を取得。趣味はサウナと読書、飲酒。

著書
『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)
『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)
『「発達障害かも?」という人のための「生きづらさ」解消ライフハック』(ディスカヴァー21)

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